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時評:ジェニンの虐殺と聖誕教会ーーアメリカーイスラエル超国家主義と祈りの空間 小林正弥(千葉大学)

日曜日, 4月 21st, 2002

時評:ジェニンの虐殺と聖誕教会ーーアメリカーイスラエル超国家主義と祈りの空間
■1.ジェニンの虐殺
■2.歴史の逆説
■3.歴史的教訓の欠如
■4.アメリカーイスラエル超国家主義批判
■5.大日本帝国とアメリカ世界帝国の自称「自衛戦争」
■6.アメリカの国際機関クーデターとベネズエラ・クーデター失敗
■7.聖誕教会包囲の象徴するものーー戦争と愛
■1.ジェニンの虐殺
パウエル国務長官の調停が事実上失敗に終わりました。イスラエルはパウエル国務長官との約束によってジェニン、ラマラやナブルスなどから撤退を行っている ものの、これはアメリカを懐柔するためで、その一方ではガザ地区の南部の難民キャンプなどへ侵攻しており、ラマラの議長府やベツレヘムの生誕教会の包囲も 続けています。アメリカは事実上、これらを容認しています(資料23)。
ジェニンでは、約200(当初のイスラエル側主張)-数百人 (パレスチナ側主張)のパレスチナ人が殺戮されたという悲惨な事件が起こりました(17日の公共哲学フォーラム112及び資料1参照)。イスラエル軍は、 この凄惨な事件を隠すために死体をすぐに埋葬し、現在は数十人の死者に過ぎないと主張しているようです。1982年のベイルートの虐殺(死者約1000 人)を想起させる、虐殺行為の再現です。
中島勇氏によると、この激しい市街戦により、パレスチナ武装集団が「ジェニンの戦い」を手本にして「準国家」的な防衛組織の変化し、衝突が「国家間戦争」に転化してしまう危険があるということです(資料2の最後)。
こうなると、本当の「パレスチナ戦争」そのものとなります。イスラエル側は、軍の犠牲を避けるために、戦車だけではなく、ーー既に今回も使った(9 日)ーー戦闘機を本格的に用いて攻撃するかもしれません。この結果は、自治区において「虐殺」が繰り返されることになるでしょう。3日の緊急時評で書いた ように、自治区完全再占領やパレスチナ人の追い出し・排除などへと将来進むことも、考えられるでしょう。
このような事態が放置されると、本当の中東戦争に転化する危険が危惧されます。そのような危険について、軍事的に分析した文章として、資料9をご覧下さい。
幸い、パレスチナ側の訴えるジェニンの虐殺について、イギリスなどでも戦争犯罪であるという国際的な非難が高まり(資料8)、国連安保理はジェニンに現地 調査団を派遣する決議を採択しました(19日)。アメリカのバーンズ米国務次官補(中東担当)ですら、ジェニン難民キャンプを視察して、「むごすぎる悲劇 だ。パレスチナの数千の民間人が甚大な苦しみを被ったことは明らか」と述べ、イスラエル軍の作戦を暗に批判しました(20日)。ワシントンでも、大規模デ モが行われました(21日、資料12)。
このような追及や批判を徹底的に進めることが、イスラエルを制約することになり、以上のような悪夢の事態を防ぐことにつながるでしょう。イスラエルの完全撤退と議長の解放が実現することを期待したいと思います。
■2.歴史の逆説
振り返って考えてみると、歴史の逆説がここには存在します。20世紀の歴史において、最大の虐殺は、ナチス・ドイツのユダヤ人殺戮(ホロコースト)であ り、その目的はいわば「民族浄化」でした。それ故に、戦後ドイツはーー「南京大虐殺」などを引き起こした日本と共にーー厳しく糾弾され、そのような悲惨な 事件が二度と起こらないように、多くの人々が最大限の努力を傾注してきたのでした。
戦後の社会科学における最大の目的も、このような悪夢が再現 することのないようにすることだったと言っても過言ではないでしょう。他の様々な論点については、多様な意見が存在しているにもかかわらず、この1点にお いては、殆ど全ての社会科学者や多くの良識ある市民が一致していたと言ってよいでしょう。これは、戦後の社会科学における最大公約数に他なりませんでし た。
旧ユーゴなどにおいても、非人道的な殺戮行為が起きたとされたが故に、「人道的介入」の妥当性が主張されたのでした。この場合は、 その主張の正当性について多くの議論があったのですが、今回のパレスチナ大侵攻においては、殺戮行為の存在は、英米系メディアによってすら明確に報道され ており、疑う余地がないように思えます。
責任者たるイスラエル側の主張を除けば、非人道的な虐殺の発生を疑う声は殆どありません。驚い たことに、フライシャー報道官は、イスラエル・ロビーの圧力を受けたらしく、パレスチナ寄りの調停と見られることを恐れて、シャロン首相を「平和の人」と 呼びました(!)(資料3)。正気の表現とは思えません。
ここにおける最大の歴史的逆説は、かつてナチス・ドイツに虐殺されたユダヤ人 の作った国家・イスラエルが、今度はパレスチナ人に対して、文明国としては最大規模の虐殺行為を行っているということです。かつて同胞が虐殺されたからと 言って、それとは無関係な他者・弱者を殺戮して良いはずはありません。私には、イスラエルの繰り返す殺戮行為は、未来の世界において、かつてのナチスや軍 国主義・日本のように厳しく指弾されるようにーーそして指弾されるべきなようにーー思えます。
■3.歴史的教訓の欠如
戦後ドイツや日本は、他国から批判されただけではなく、内部の民主派によって、自国の過去を自己批判して、超国家主義やファシズムといった誤りを繰り返す ことのないように努力を積み重ねてきました。日本の場合、その成果は決して十分とは言えず、再び頭をもたげてきた国家主義に対して、警戒しなければなりま せん。しかし、ここには、ともかくも歴史の教訓が存在します。
これに対して、反「テロ」世界戦争において恐ろしいことは、アメリカやイ スラエルにおいては、そのような「歴史の教訓」が存在していないということです。イスラエルは戦後に建国されたわけですから、当然第2次世界大戦の教訓は ありませんし、むしろナチズムによる被害者という自己正当化があるのみでしょう。4回にわたる中東戦争は、軍事力の行使に反対する歴史的教訓よりは、むし ろ軍事力行使の必要性という「歴史的教訓」をもたらしているようにすら思えます。
他方、アメリカはベトナム戦争以外にはほとんど敗北し たことがない国ですし、湾岸戦争の勝利によってベトナム戦争の教訓は忘れられてしまったようです。現在のアメリカにおける異様な愛国心・ナショナリズムの 高揚は、国内における反戦の言論の自由を封殺していますから、もはや「健全なナショナリズム」ではありえません。
イスラエルの強硬姿勢の背景には、やはり国民のナショナリズムの高揚があります。
「12日付イスラエル紙マーリブの最新世論調査によると、シャロン首相の支持率は下降気味だった1カ月前の35%から59%に上昇した。今回のイスラエル 軍による軍事作戦「守りの壁」を支持する人は75%に上った。また、アラファト議長の「追放策」を62%が支持したからだ」(資料3)
このために、内閣には超保守派が入って連合政権が強化された反面、労働党は政権離脱ができなくなっっているようです。さらに、与党の保守党リクードにおい ては、シャロン首相以上に強硬な姿勢を取るネタニヤフ氏の人気が上昇しているということです(公共哲学フォーラム105参照)。
アメリカやイスラエルにおいては、過剰な愛国心やナショナリズムの結果として、悪事を行い手痛い敗北を喫するという歴史的体験がないために、このような事態が容易に起こると思えるのです。
■4.アメリカーイスラエル超国家主義批判
これは、戦前の日本と同様の、「超国家主義(ウルトラ・ナショナリズム)」と呼んでもよいのではないでしょうか。これまで私は「超国家主義」という概念 をーー丸山眞男に従ってーー戦前の日本についてのみ使用してきました。しかし、今回の事態を見て、アメリカーイスラエルにも適用できるのではないか、と考 え始めました。
かつて丸山眞男は、戦前日本の超国家主義を厳しく反省する論理を提示したとともに、冷戦と共に始まったアメリカのマッカーシズム (やソ連のスターリニズム)にも厳しい批判を行いました。マッカーシズムの吹き荒れるアメリカには、「ファシズム化」が始まっており、冷戦下にあっては 「国際的反革命の総本山となっった」アメリカを「戦後ファシズム」の代表例として批判したのでした(1)。
ここには、普遍的原理に基づいて言論を行う知識人の栄光が存在するでしょう。例えば、「自由」の原理によって、戦前日本の軍国主義を批判するが故に、翻って、「自由」を圧殺しているアメリカのマッカーシズムを批判しなければならないのです。
保守派の国家主義者は、しばしば丸山を「西洋贔屓」とか「西欧かぶれ」と見なして、ヨーロッパやアメリカを賛美する反面、日本を自虐的に批判したかのよう に描き出します。しかし、丸山は決して、現実に存在するアメリカやヨーロッパを無条件に賛美する「西洋贔屓」ではありませんでした。彼は、確かに西洋的な 「自由の理念」を擁護しましたが、それは普遍的な理念であるが故に、その理念によって、現実の西洋に対しても厳しい批判をすることがあり得たのです。
この精神を想起すれば、私達は、日本の国家主義や官僚主義を批判するだけではなく、現在のアメリカやイスラエルにおける「超国家主義」をも厳しく批判しな ければならないでしょう。丸山の場合、「超国家主義」が通常の「国家主義」と異なる所以は、公私が分化せずに、天皇制国家が「倫理的実体として価値内容の 独占的決定者」であったという質的特質に求めました(2)。この意味では、アメリカもまだ戦前の日本のような「超国家主義」にまでは至っていないかもしれ ません。しかしながら、自国の利益を「正義」と見做してそれを絶対視しその「正義」の名の下に他国民を犠牲にするという点では、現在のアメリカーイスラエ ルも、戦前の日本とは別形態ながら、やはり「超国家主義」と呼んでもよいように思えるのです。
そこで、一般的に、他国民を犠牲にしない「健全な 国家主義・国民主義」と区別して、他国民を犠牲にする国家主義を「超国家主義」と定義したらどうでしょうか。この場合、戦前の日本は「日本型超国家主義」 であったのに対して、現在のアメリカやイスラエルは「アメリカ型・イスラエル型の超国家主義」と言うことが出来ると思うのです。
さらに、アメリカにおける反戦の言論弾圧を考えれば、「社会の強制的なセメント化・同質化」というーー丸山が定義した意味におけるーーファシズム化が始まっているとも言えるかもしれません。
最近、学識のあるはずのアメリカ専門家や研究者の一部が、現在の状況においてもなおアメリカを賛美し擁護するのを目の当たりにして、私は驚いてしまいまし た。しかし、考えてみれば、それほど極端ではなくとも、大なり小なり日本人の多くは、心理的にアメリカを批判できなくなっているのかもしれません。
確かに、アメリカは戦後日本にとって、民主主義や地方自治のモデル国の一つであり、多くの知識人が、アメリカを批判することを躊躇するのも、心理的に理解 できなくはありません。しかし、この精神の構造こそが、国家主義の批判する「西洋(アメリカ)贔屓」「西洋(アメリカ)かぶれ」に他ならないのです。
自由という普遍的理念に基づいて戦前の日本超国家主義を否定する者は、その論理的帰結として、今日のアメリカーイスラエル超国家主義をも批判しなければな りません。逆に言えば、反「テロ」世界戦争における超国家主義を批判することのできない者には、日本軍国主義における超国家主義も批判する資格がないと 言って良いでしょう。
■5.大日本帝国とアメリカ世界帝国の自称「自衛戦争」
イスラエルやアメリカの主張に従って、この攻撃は「自衛戦争」だから正当だという反論があるかもしれません。既に様々な箇所でこの論理には批判を加えましたから、ここで繰り返すことはしません。ここでは、戦前の日本超国家主義との類似性に注意を喚起しておきましょう。
戦前の日本は、中国などを「侵略」すると称して戦争を起こしたでしょうか? 否、その場合にも「自衛」という名目が使われました。例えば、満州事変におい ても、日本が既に中国に軍事的に進出している事態を顧みずに、現地で起きた暴動などを背景に、(実際は柳条湖事件は、石原莞爾らの謀略であるにもかかわら ず)中国側が仕掛けた暴挙であるとして、正当防衛の戦いと自称して軍事的な侵略を行いました。これは、現在の反「テロ」戦争の論理とどこが違うのでしょう か? 一般的には9・11同時多発テロは、アメリカが仕掛けた謀略ではないとされていますが、過去の政策を反省せずに、事件に対して自衛戦争と称して軍事 力に訴える点は同じです。
当時の「大日本帝国」は、「帝国」の外交的・軍事的政策を反省することなく、「匪賊」討伐という「自衛」目的と称して 戦争を拡大していったのです。そして、第1次近衛内閣は、「国民政府を対手とせず」という声明を出して(1938年1月16日)、もはや引き返せない泥沼 に突入していきました。これは、シャロン首相が自治政府を「テロ支援体制」と決めつけ、パレスチナ自治政府のアラファト議長との接触を一切絶つと断行を宣 言した状況(昨年12月13日)とよく似ています。やはり、この断行声明から、今日のような戦争状態へと突入してしまったわけです。
こ [...]

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時評「核戦争の危機に面してーーイラク戦に対する反核平和」 小林正弥(千葉大学)

水曜日, 4月 3rd, 2002

1.核使用策定計画の衝撃ーー戦争で核兵器が行使される世界
2.反「テロ」世界戦争への拡大ーーイラク戦線開始
3.イラク攻撃の外交的準備ーー不名誉な日米枢軸
4.イラク攻撃のための停戦ーー便宜的なパレスチナ和平圧力
5.核行使の誘惑ーー不審なアナコンダ作戦の「教訓」
6.アメリカ帝国の夷狄討伐世界戦争ーー死線の完全突破
7.世界戦争への拡大と長期化ーー次期大統領選への戦争選挙戦術
8.イラク戦の最悪シナリオーー核戦争と中東戦争
9.被爆国家・日本の世界史的使命ーー絶対的反核の貫徹
10.戦後日本公共哲学の絶対的当為ーーー絶対的公共悪に対する和戦
.
.続報(3月29日追加)
■1.核使用策定計画の衝撃ーー戦争で核兵器が行使される世界
既にご存じだと思いますが、9日付ロサンゼルス・タイムズは、アメリカが7カ国に対して非常時の核使用計画策定と、より小型の核兵器開発を指示していたこ とを報じ、さらに10日付ニューヨーク・タイムズは生物化学兵器貯施設を標的にした核攻撃シナリオの策定指示を報じました。核兵器使用の対象に挙げられて いるのは、ロシアをはじめ中国、北朝鮮、イラク、イラン、リビア、シリアで、「悪の枢軸」3国だけでなく、中国やロシアまでも対象に入っています。文書で は、核の使用が想定されるケースとして、(1)通常兵器では撃破できない敵(2)核や生物・化学兵器による攻撃への報復(3)予想を超える軍事上の展開、 の三種類が明記されていると報じられています。
日本の新聞が本格的に報じたのは10日で、私は会議のため山口でこの記事に接して、非常 に大きな衝撃を受けました。中国新聞では10日の一面トップで大きく扱っており、全国紙よりも本格的に報道していました(資料3)。おそらく、これは中国 新聞が広島県もカバーしているためだと思われ、参考資料に見ることができるように、中国新聞の報道はこの件に関しては全国紙よりも充実しています。
アメリカ当局者は核使用計画策定の方は政治的考慮から否定していますが、民間研究所グローバル・セキュリティーが核兵器開発指示の文書の抜粋をHPで公表 しましたし(資料13)、ラムズフェルド国防長官は情報漏洩を怒り(資料10)、ボルトン国務次官(安全保障担当)が事実上認める発言をしておりブッシュ 政権の核攻撃の可能性を認めている(資料11、18)ので、報道が真実であることは確実です。参考までに、資料14にそのHPに掲載されている機密文書 Nuclear Posture Review[Excerpts]を付します。
既に2月22日の段階でボルトン国務次官)が「核不拡散条約に加盟している非核保有国 には核攻撃をしない」というカーター政権以来の方針を変更する姿勢を見せていました(資料1)から、これが政権レベルで決定されたと見て良いでしょう。こ れは、核不拡散防止条約体制をますます揺るがせるものです。そして、大統領自身が、イラク・北朝鮮などに対して、大量破壊兵器開発に対して先制核攻撃も辞 さないという言明をしました(資料9)。また、前述の秘密文書では、
「一、米国が備えなければならない「直近」「潜在的」「予測不能事態」の三形態の対応計画を想定。核攻撃能力の設定に際しそれらに応じられる戦力を用意。
一、「直近の対応計画」は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による対韓国、イラクの対イスラエル攻撃や台湾をめぐる武力衝突など。

一、北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアは三形態のいずれかに属するが、北朝鮮とイラクは特に恒常的な軍事的懸念となっている。いずれもテロを支援、保護し大量破壊兵器とミサイル開発が活発。」(資料12)
とされており、特に北朝鮮の韓国攻撃、イラクのイスラエル攻撃、中国の台湾攻撃は、核使用を備えるべき「直近」の事例として具体的に挙げられています。
冷戦時代には、核兵器は抑止力とされており、万一使用されたら人類滅亡の危険を孕むものの、使用することのできない兵器と見做されていました。然るに、この核使用策定計画においては、むしろ具体的な危機において使用することが想定されています。
しかも、テロ支援や大量兵器開発が上記文書では挙げられていますから、政権は、現在の反「テロ」世界戦争において核兵器を使用する可能性を本気で考慮していると考えなければなりません。広島・長崎を始め、世界各地で批判が始まったのも当然です。
核の時計の針が動かされたのも当然です。広島・長崎以来の核兵器使用の危険が、高まっていると言わざるを得ません。これを知って、衝撃を受けないでいられ ましょうか? 核不拡散体制が危機に瀕するのみならず、アメリカは戦争で本当に核兵器が行使される世界へと舵を切ろうとしているのです。これは、黙示録的 世界に他ならないでしょう。
■2.反「テロ」世界戦争への拡大ーーイラク戦線開始
パキスタンでは、ウォール・ストリー ト・ジャーナルのダニエル・パール記者の誘拐・殺害事件(1月)に続き、昨日もイスラマバードのキリスト教会で手投げ弾テロがあり、アメリカ外交官家族を はじめ5人死亡、40人が負傷しました(17日)。今後も、様々なテロが続発することが懸念されます。
これに対して、アメリカは既に反 「テロ」世界戦争を、第2戦線以下へと展開させています。アフガニスタン戦争も継続していますが(アナコンダ作戦)、フィリピンを皮切りに、グルジア、イ エメンにも米軍が派遣されつつあり、さらにはコロンビアやスーダン・ソマリアなどへも派遣が検討されているようです。いよいよ戦線は世界中に広がり、ーー 世界大戦でこそないもののーー「世界戦争」の実質を備えてきたと言って良いでしょう(資料16)。
この焦点が対イラク戦争であること は、言う迄もありません。アメリカは、イラク攻撃には既に法的根拠がある(個別的・集団的自衛権を定めた国連憲章51条、停戦決議(安保理決議687)違 反)と主張しており(資料17)、フセイン政権打倒の意思を固めていることは確実です。
実は、同時多発テロとイラクの関係はさほど強く ないわけですが、アメリカ内部では、ーー同時多発テロとは別にーーフセイン政権が核武装する危険性が高いことを論拠として、それ以前に打倒すべきであると 論じられています。この点については、タカ派とハト派の間に大きな差はなく、その論争は主として時期(タカ派ー即刻、ハト派ー時期尚早)と方法に関しての ものとなっているようです(1)。前回述べたように、反「テロ」の論理から反「大量破壊兵器」の論理へと転換しているのは、主としてこのためでしょう。イ ラクの大量破壊兵器=核武装を阻止して、その前に攻撃するということに趣旨は尽きています。
現在は、具体策を練っている段階と思われ、アメリカでは
1.イラク反体制勢力を支援してフセイン大統領のクーデター・暗殺などを企てる。
2.アフガニスタンの場合のように、空爆を加え、イラク反体制勢力を支援する。
3.本格的地上軍投入。
というシナリオが公然と語られ、議論されています。
フォーラム75でお知らせしたように、1.や2.の段階は既に始まっており、CIA工作員は既にイラクに潜入しているようです。つまり、空爆などの本格的な戦争は勿論現在準備段階ですが、既にそのための第1段階は始まっているのです。即ち、
「【ワシントン28日共同】二十八日付の米USAトゥデー紙は、米中央情報局(CIA)がイラクのフセイン政権を打倒するため、内外の反体制組織を支援する秘密計画を進めていると報じた。米政府当局者や元CIA高官の話として伝えた。
同紙によると、CIAはイラク北部で活動する反体制クルド人組織や南部のシーア派イスラム組織の武装化や軍事訓練を計画。同時にイラク軍兵士の寝返り工作を進めるという。
ブッシュ大統領は三週間前にCIAのフセイン政権転覆計画を承認。最近、米外交官やCIA工作員がイラク北部に潜入した。
米政府はイラク内での工作と並行して、欧州で活動するイラクの反体制派組織イラク国民会議(INC)の元将校らを集めた会合を財政面で支援する。
ブッシュ大統領は大量破壊兵器を生産しているとしてイラクを「悪の枢軸」と位置付け、あらゆる手段でフセイン体制を打倒する意向を表明。軍事行動も辞さない構えで、国防総省は二十万人の米軍兵員を含む対イラク攻撃計画の検討を始めている。」(資料20)
この記事に続く情報として、ごく最近にも
「イラクの反政府勢力、イラク国民会議(INC)幹部は、米政府がフセイン政権打倒をめざす元イラク政府高官と数週間以内にワシントンで協議することで合意したと述べた」と報じられました(資料18)。
しかし、INCやクルド人勢力などのイラクの反体制派は、フセイン政権に比して弱小なので、アフガニスタンの場合のように北部同盟を空爆で支援するような 形では政権打倒に成功する可能性は必ずしも大きくないと考えられています。湾岸戦争の後でも、フセイン政権は北部クルド人武装勢力やイラク南部の反政府勢 力の蜂起を鎮圧したからです。
そこで、1や2の可能性を試みながらも、それで不十分な場合に、3の地上軍投入というシナリオが論じられています。この場合、一般的に25万人ぐらいの投入が必要とされています(2)。
これに即して、イギリスはその1割の2万5000人の出兵を検討しているようです。ブレア首相は支持を表明するに至り、来月5日からテキサス州の大統領別 荘でブッシュ大統領と会談してイラク攻撃への協力を表明する見通しです。さすがに、イギリス国内でも、閣議でクック院内総務を始め複数の閣僚が疑念を表明 して政権内部ですら異論が噴出し、60人を超す与党労働党議員らが「対米支援への懸念」を盛り込んだ動議案に署名しました(9日、朝日)。
■3.イラク攻撃の外交的準備ーー不名誉な日米枢軸
このために、アメリカは何とかイラク戦についての国際的支持を取り付けようとしています。その起点がブッシュ大統領の日本訪問(2月18-19日)でし た。後で親書が朝日新聞でリークされたように、実は日本経済を非常に懸念していたわけですが、表舞台では小泉首相を「偉大な改革者」として持ち上げて、イ ラク戦を念頭に反テロ戦争への支持を取り付けようとしたわけです。流鏑馬の鑑賞は、この訪日の意図を象徴的に表すものでした。馬上からブッシュ大統領が矢 を射る流鏑馬のイラストを送られて、「我々は悪と戦っている」と語った通りです。その矢で「テロリスト」を射ようというのでしょう!
ブッシュ大統領は、「日本は米国の最大の本物の友人の一人だ」とし、「アジア歴訪を日本から始めたことには重要な理由がある」として、日米同盟の意義を強 調しました。同時多発テロ事件以降「日米同盟の強さと、日本の地球規模の欠かせない役割」が示されたとして、対米支援に謝意を表明し、「自由は勝ち残る。 文明
とテロは共存できない。テロを破ることによって世界の平和を守る」と述べました。対イラク軍事行動についても、強い語調で「全ての選択肢はあ る。テーブルの上にそのまま載せておきたい。何一つ排除したくない」と述べて、イラク戦を考えていることを明確にしました。悲しいことに、日本の首相はそ れに応えて事実上の支持表明を行ってしまいました(以上、朝日18ー19日)。
日本との絆をことさらに謳ったのは、フランスやドイツ (フィッシャー外相)をはじめとするヨーロッパ諸国、さらにはイギリスですらイラク戦争には反対の気運が強いからです。特に、フランスはジョスパン首相・ ベドリヌ外相・リシャール国防相と一致して批判しており、アメリカを苛立たせています(資料22・23)。そこで、アメリカは最も従順な日本から最初に公 式な支持を取り付けることにしたものと思われます。
日本は、やはりアメリカの最も従順な随従国家であること、一の子分国家たることを表 してしましまいました。北朝鮮が「日米イスラエル」こそ「悪の枢軸」と批判しています(資料21)が、この時点では、実際に日米枢軸とでも呼べる状態だっ たのです! アフガニスタン戦争の時にも日本政府は最もアメリカに随従で最も早く軍隊派遣を決めたので、私は論説で「日英米枢軸」と批判的に揶揄しました が、今回はヨーロッパが明確に批判しているので、イラク戦への支持形成における日米枢軸が誰の目にも際だっています。
反「テロ」世界戦争のイラク戦線は、日米枢軸によって準備が開始されたことーーこれほど平和国家・日本にとって不名誉なことはないでしょう。
■4.イラク攻撃のための停戦ーー便宜的なパレスチナ和平圧力
現在は、チェイニー副大統領が10日から中東12カ国を歴訪中で、イラク攻撃への支持を取り付けようとしていますが、ヨルダン・エジプト・イエメン・オ マール・アラブ首長国連邦に続いてサウジアラビアすらもイラク攻撃に反対し、基地提供などの協力に難色を示しました(16日)。中東諸国からすれば、湾岸 戦争当時と違ってイラクの脅威は現在はさほどないのに対して、パレスチナ問題は深刻な情勢にあるからです。
そこで、アメリカは、中東諸国の支持を確保するために、パレスチナ国家に言及して「イスラエルとパレスチナの二つの国家」の平
和共存を求める国連安保理決議案を初めて提出しました(12日)。そして、サウジアラビアのアブドラ皇太子の中東和平構想にも関心を示し、これまでとは姿勢を変化させて、イスラエルの強硬策を批判して和平に応じるように圧力をかけ始めました。
イスラエルはますます凶暴になっており、ラマラ制圧というような最大規模の軍事作戦を行いましたが、ジニ米特使の仲介に当たって、アラファト議長の軟禁を 解除しました。さらに、アメリカの強い圧力を受けて当初の決定を変更し、ラマラなどから撤退して、停戦に応じて交渉の席に着く姿勢を見せています。16日 には、「シャロン首相が17日に三者会談を開催して停戦宣言をする」という声明を首相府が勇み足で発表し後撤回しましたが、18日には「自治区域からイス ラエルが撤退した後はパレスチナ政府が治安維持にあたる」という現場司令官の合意が成立して停戦宣言へと準備が進みつつあるようです(朝日、夕刊18 日)。
パレスチナ国家の承認は重要ですし、停戦自体は、勿論望ましいことです。しかし、この背景を考えると必ずしも素直に喜べません。 アメリカの和平圧力は、イラク攻撃のための便宜的なものに過ぎず、この停戦は、仮に成立したとしても、イラク攻撃の下準備に他ならないからです。それ故、 遅くともイラク攻撃が終わってしまえば、また元の状態に戻ってしまうことが危惧されます。あるいは、それまでも持たず、ジニ特使が帰ってしまえば崩壊する かもしれません。シャロン首相が本当に全占領地からの撤退をする気になるとは到底思えないからです。おそらく、単にアメリカの圧力を受けて一時的に譲歩す るに過ぎず、自爆テロなどをきっかけにしてーーあるいはパレスチナ側幹部暗殺などによってそのような事件を発生させーー再び強硬策に戻る機会を虎視眈々と 伺うことでしょう。
アフガニスタン戦争の段階でも、開戦以前にアメリカはイスラーム諸国の支持を得るために、パレスチナ国家構想に言及 [...]

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