「悪の枢軸」を語る「戦争屋」――アメリカ世界帝国主義論と「米帝」中東・朝鮮戦争の脅威 小林正弥(千葉大学)
土曜日, 2月 16th, 2002
「悪の枢軸」を語る「戦争屋」ーーアメリカ世界帝国主義論と「米帝」中東・朝鮮戦争の脅威
■1.「悪の枢軸」発言ーー対イラク先制攻撃言明
田 中外相更迭(29日)に隠れてしまったため、同じ日に行われたブッシュ大統領の一般教書演説(資料1)はさほど日本のマスコミに報道されなかった。しか し、これは、外相更迭事件と同様に信じがたいものであり、日米双方の政権の低劣さと危険性をこの二つの事件以上に明確に語るものはない。
この演説の問題点は、次の3つであろう。
1.イラクに加えて、北朝鮮とイランとを「悪の枢軸(Axis of Evil)」と呼んだこと。
2.対テロの論理を用いながら、「大量破壊兵器」所持国への戦争を示唆し、実質的には、戦争の論理を変更・拡大したこと。
3.自衛戦争という名目を捨て、事実上の先制攻撃の可能性を示唆したこと。
これは、ブッシュ大統領個人の思い付きではなく、その後にライス・ラムズフェルトら政権首脳がそれを敷衍する発言を行い、大統領は「対アフガニスタン戦が 成功したからといって、本気ではないと思っている人達が世界にはいるが、我々に躊躇いはない」として、「各国も我々の側につく必要がある」と同調を要請し た(資料3)。さらに、穏健派のパウエル国務長官までが、大統領の強い指示に従って強硬姿勢に転じ、下院外交委員会で、フセイン政権打倒を「米国だけで行 わなければならない」「考えうる最も深刻な行動もありうる」と述べた(8日、資料11)。
従って、イラク等の攻撃は既に政権全体の意思と見做さなければならず、副大統領の中東歴訪はイラク単独攻撃への布石と見られている(資料9)。アフガニス タン攻撃の際に、政権内部で強硬派は当初から大量報復攻撃としてイラクも同時に攻撃することを主張し、パウエルら慎重派の抵抗で、その実施を先延ばしにす ることとした。いよいよその時期が到来し、正に大量報復攻撃を開始しようとしているわけである。今回は、ロシア・中国などが批判しているのみならず、フラ ンス(ベドリヌ外相、ジョスパン首相)やイギリスのような欧州の友好国までもが批判的なので、アメリカ一国で攻撃に出るという信じがたい凶暴な姿勢を見せ ており、この姿勢は現在でも変わらない(資料17)。
■2.「文明の対話」を破壊する戦争国家ーー邪悪なのはどちら?
思想的に見て驚倒したのは、イラク・北朝鮮だけではなく、イランまでも「悪の枢軸」に入れたことである。同時多発テロ事件やアフガニスタン戦線について、 イランは比較的アメリカに好意的な姿勢を取っており、突然攻撃対象になる現実的理由は見当たらない。パレスチナへの武器輸出事件への関与を疑っているけれ ども、それだけで攻撃対象になるとは思えない(1)。タリバーン政権の場合は、その原理主義的な時代錯誤の硬直的思想の故に、思想的には擁護できなかった が、イランの穏健派・ハタミ政権の場合は、全く事情が異なる。
ハタミ大統領の著書『文明の対話』(共同通信社、2001年) は、思想的にも相当評価できる良質の著作であり、むしろこのような角度からこそ、「文明の衝突」の危機を避け、文明間の平和共存が可能になると思わせるも のであった。ある意味では、イスラーム圏の現状の中で、ハタミ大統領は、いわば「哲人大統領」のような存在であり、「文明の衝突」を回避するための希望の 星であった。イラン内部では、なお強硬な保守主義的勢力も強いとはいえ、ホメイニ師がイラン革命を起こした国で、このような優れた思想を大統領が述べるこ との意味は決して小さくはない。さらに、現実の外交にも、同時多発テロ事件後にその改革派路線は明確に反映していたのである。
イランは「文明の対話」を提唱していた。それを「悪」と呼ぶ国家は、すなわち「文明の対話」を破壊する戦争国家である。どちらが、「邪悪な国家」だろうか?
■3.「文明の衝突」をもたらす「悪の帝国の戦争屋」
テロとの直接的関係もないのに、イラクを攻撃し、さらに反テロ戦争に比較的協力的だったイランまでも「悪」と規定して、果たしてイスラーム諸国ないしムス リムはアメリカを支持し続けることができるであろうか? これでは、「テロ組織」どころか、原理主義ですらなくとも、アメリカの攻撃の対象になり得ること になる。穏健派のイスラーム国家ですら、アメリカの随従し続けない限り、先制攻撃を受ける危険が存在することになってしまう。過激派ならずとも、正統的な ムスリムから見てさえ、これはアメリカの暴虐な支配であり、「防衛的ジハード」の対象にならないであろうか?
「文明の対話」を提案して国連のプロジェクトにまでした国家を攻撃するようでは、「文明の衝突」を自ら引き起こそうとするかのうようである。敵対していた イランとイラクとを共に「悪の枢軸」と規定することは、逆にこの二国の間の提携、ないしイランと他のラーム諸国との提携をもたらすかもしれない。シーア派 のイランとスンニ派のイスラーム諸国が提携することの意味は決して小さくはない。イスラーム内部の思想的対立が乗り越えられて、イスラームとしての連帯感 が現在以上に生まれてくるかもしれないからである。
これまでは、イランーイラク(まして北朝鮮)の外交的提携ないし「枢軸」などは、存在しなかった。しかし、この愚かなアメリカの規定により、そのような 「枢軸」が生まれてきたら、どうするのだろうか? イスラーム陣営の結集という可能性が生まれてくる。これは、ハンチントンの「文明の衝突」のシナリオ通 りなのである。アフガニスタン戦線は、幸い「文明の衝突」にまでは至らなかった。しかし、アメリカは、本当の「文明の衝突」を引き起こしたいのだろうか?
北朝鮮が「悪の枢軸」に対抗してアメリカを「悪の帝国」と呼んで非難した(資料8)のは、今までの行動パターンから見てむしろ当然の成り行きであろう。し かし、極めて理性的で教養の深いハタミ大統領が「戦争屋的な態度」と呼んだ(資料5)ことは、無視しえない。革命記念日(11日) には、イランは反米一色になり、大統領も「米国の政策はシオニストに影響されている」と述べ、「イラン国民を根拠なく侮辱することは許さない」、(「米国 に死を」と叫ぶ群衆を前に)「米国の指導者達は、自分が世界の支配者だと思っている。大人気ない彼らに目覚めてほしい」と演説したという(朝日、12日、16日、資料18も参照)。
まず間違いなく、思想的に見れば、アメリカ政権担当者よりもハタミ大統領の方が高い教養・見識を有しており、北朝鮮の場合のように、その言を単純に扇動と 片付けるわけにはいかない。ビンラディン氏やオマル師の場合ですら、精神性においてはアメリカ当局者を凌駕しているのではないかと疑ったのであるが、ハタ ミ大統領の場合は、精神性は言う迄もなく、理性や教養においても優劣は明らかであろう。
ハタミ師の反米演説は、決して単なる扇動演説ではなく、アメリカの非常識な態度に困惑した上での批判であろう。「大人気ない彼らに目覚めてほしい」という 言には、私も全く同感である。北朝鮮の金総書記ですら、「悪の枢軸」と名指しされて「思い悩み痛ましい様子」であったという(資料22参照)。
イランはおろか、北朝鮮の言うことは、全て非合理な宣伝であるという常識がここでは当てはまりそうもない。「悪の枢軸」を語る者こそ、「悪の帝国の戦争屋」であるかもしれないのである。
■4.アメリカの国益による戦争ーー介入の真実
ここから改めて明らかになったことは、例えばオマル師・タリバーンやフセイン大統領の思想や政策が非人道的だから、人々を助けるためにアメリカが攻撃する のでは全くない、ということである。ハタミ大統領のイランが非人道的で民衆を虐殺しているという報道があっただろうか? 保守派の抵抗が強くてイランの自 由化がさほど進まない、という点ならば、聞いたことがある。しかし、自由化を推進しようとしている大統領を頂く国を攻撃することが、「人道的介入」だと は、さすがのアメリカも言い得ないであろう。
ア メリカは、多くの場合、それらの政権の人々を救うために爆撃しているのではなく、自らの「国益」(と信じるもの)を達成するために爆撃しているのである。 アメリカの介入事例を見ればこれは自明であるが、この自明の理を直視しない論者が多いので、敢えて強調しておきたい。タリバーン政権の残虐な刑や女性抑圧 から、民衆を救うために爆撃するなどというのは、全くの戯言である。
タリバーン政権の厳格な刑によって、北部同盟支配下の犯罪行為の横行が抑止されたのであったし、女性「抑圧」は、アフガニスタンの田舎の習慣の強制であ る。女性抑圧により爆撃するならば、サウジアラビアも爆撃しなければならないであろう。既に、新政権の下で犯罪の増加が報道されている(資料23)し、ド スタム将軍など軍閥同士の内紛や地方勢力間の武力衝突が伝えられている(2)。それどころか、この文章の執筆中に、政権内部の反目で、国防省のアブドラ・ ジャン・タフィディ司令官、カランダル・ベグ国防次官、ハリム検事らによりアブドル・ラーマン航空・観光相が殺害されるという驚くべきニュースが飛び込ん できた(資料22)。再び内戦状態に戻って殺戮が始まらないように願うばかりである。
それ故、タリバーン政権攻撃の名目は、戯言であると同時に、アメリカの宣伝ないし扇動(プロパガンダ)なのである。アメリカの軍事行動の目的は、敵対者の討伐という一点にある。この 真実から目を逸らして、例えば「解放されて喜ぶ女性」の映像を流すこと、それに踊らされることは、「戦争宣伝(プロパガンダ)」に惑わされているのであ [...]


