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時評:ジェニンの虐殺と聖誕教会ーーアメリカーイスラエル超国家主義と祈りの空間
■1.ジェニンの虐殺
■2.歴史の逆説
■3.歴史的教訓の欠如
■4.アメリカーイスラエル超国家主義批判
■5.大日本帝国とアメリカ世界帝国の自称「自衛戦争」
■6.アメリカの国際機関クーデターとベネズエラ・クーデター失敗
■7.聖誕教会包囲の象徴するものーー戦争と愛
■1.ジェニンの虐殺
パウエル国務長官の調停が事実上失敗に終わりました。イスラエルはパウエル国務長官との約束によってジェニン、ラマラやナブルスなどから撤退を行っている ものの、これはアメリカを懐柔するためで、その一方ではガザ地区の南部の難民キャンプなどへ侵攻しており、ラマラの議長府やベツレヘムの生誕教会の包囲も 続けています。アメリカは事実上、これらを容認しています(資料23)。
ジェニンでは、約200(当初のイスラエル側主張)-数百人 (パレスチナ側主張)のパレスチナ人が殺戮されたという悲惨な事件が起こりました(17日の公共哲学フォーラム112及び資料1参照)。イスラエル軍は、 この凄惨な事件を隠すために死体をすぐに埋葬し、現在は数十人の死者に過ぎないと主張しているようです。1982年のベイルートの虐殺(死者約1000 人)を想起させる、虐殺行為の再現です。
中島勇氏によると、この激しい市街戦により、パレスチナ武装集団が「ジェニンの戦い」を手本にして「準国家」的な防衛組織の変化し、衝突が「国家間戦争」に転化してしまう危険があるということです(資料2の最後)。
こうなると、本当の「パレスチナ戦争」そのものとなります。イスラエル側は、軍の犠牲を避けるために、戦車だけではなく、ーー既に今回も使った(9 日)ーー戦闘機を本格的に用いて攻撃するかもしれません。この結果は、自治区において「虐殺」が繰り返されることになるでしょう。3日の緊急時評で書いた ように、自治区完全再占領やパレスチナ人の追い出し・排除などへと将来進むことも、考えられるでしょう。
このような事態が放置されると、本当の中東戦争に転化する危険が危惧されます。そのような危険について、軍事的に分析した文章として、資料9をご覧下さい。
幸い、パレスチナ側の訴えるジェニンの虐殺について、イギリスなどでも戦争犯罪であるという国際的な非難が高まり(資料8)、国連安保理はジェニンに現地 調査団を派遣する決議を採択しました(19日)。アメリカのバーンズ米国務次官補(中東担当)ですら、ジェニン難民キャンプを視察して、「むごすぎる悲劇 だ。パレスチナの数千の民間人が甚大な苦しみを被ったことは明らか」と述べ、イスラエル軍の作戦を暗に批判しました(20日)。ワシントンでも、大規模デ モが行われました(21日、資料12)。
このような追及や批判を徹底的に進めることが、イスラエルを制約することになり、以上のような悪夢の事態を防ぐことにつながるでしょう。イスラエルの完全撤退と議長の解放が実現することを期待したいと思います。
■2.歴史の逆説
振り返って考えてみると、歴史の逆説がここには存在します。20世紀の歴史において、最大の虐殺は、ナチス・ドイツのユダヤ人殺戮(ホロコースト)であ り、その目的はいわば「民族浄化」でした。それ故に、戦後ドイツはーー「南京大虐殺」などを引き起こした日本と共にーー厳しく糾弾され、そのような悲惨な 事件が二度と起こらないように、多くの人々が最大限の努力を傾注してきたのでした。
戦後の社会科学における最大の目的も、このような悪夢が再現 することのないようにすることだったと言っても過言ではないでしょう。他の様々な論点については、多様な意見が存在しているにもかかわらず、この1点にお いては、殆ど全ての社会科学者や多くの良識ある市民が一致していたと言ってよいでしょう。これは、戦後の社会科学における最大公約数に他なりませんでし た。
旧ユーゴなどにおいても、非人道的な殺戮行為が起きたとされたが故に、「人道的介入」の妥当性が主張されたのでした。この場合は、 その主張の正当性について多くの議論があったのですが、今回のパレスチナ大侵攻においては、殺戮行為の存在は、英米系メディアによってすら明確に報道され ており、疑う余地がないように思えます。
責任者たるイスラエル側の主張を除けば、非人道的な虐殺の発生を疑う声は殆どありません。驚い たことに、フライシャー報道官は、イスラエル・ロビーの圧力を受けたらしく、パレスチナ寄りの調停と見られることを恐れて、シャロン首相を「平和の人」と 呼びました(!)(資料3)。正気の表現とは思えません。
ここにおける最大の歴史的逆説は、かつてナチス・ドイツに虐殺されたユダヤ人 の作った国家・イスラエルが、今度はパレスチナ人に対して、文明国としては最大規模の虐殺行為を行っているということです。かつて同胞が虐殺されたからと 言って、それとは無関係な他者・弱者を殺戮して良いはずはありません。私には、イスラエルの繰り返す殺戮行為は、未来の世界において、かつてのナチスや軍 国主義・日本のように厳しく指弾されるようにーーそして指弾されるべきなようにーー思えます。
■3.歴史的教訓の欠如
戦後ドイツや日本は、他国から批判されただけではなく、内部の民主派によって、自国の過去を自己批判して、超国家主義やファシズムといった誤りを繰り返す ことのないように努力を積み重ねてきました。日本の場合、その成果は決して十分とは言えず、再び頭をもたげてきた国家主義に対して、警戒しなければなりま せん。しかし、ここには、ともかくも歴史の教訓が存在します。
これに対して、反「テロ」世界戦争において恐ろしいことは、アメリカやイ スラエルにおいては、そのような「歴史の教訓」が存在していないということです。イスラエルは戦後に建国されたわけですから、当然第2次世界大戦の教訓は ありませんし、むしろナチズムによる被害者という自己正当化があるのみでしょう。4回にわたる中東戦争は、軍事力の行使に反対する歴史的教訓よりは、むし ろ軍事力行使の必要性という「歴史的教訓」をもたらしているようにすら思えます。
他方、アメリカはベトナム戦争以外にはほとんど敗北し たことがない国ですし、湾岸戦争の勝利によってベトナム戦争の教訓は忘れられてしまったようです。現在のアメリカにおける異様な愛国心・ナショナリズムの 高揚は、国内における反戦の言論の自由を封殺していますから、もはや「健全なナショナリズム」ではありえません。
イスラエルの強硬姿勢の背景には、やはり国民のナショナリズムの高揚があります。
「12日付イスラエル紙マーリブの最新世論調査によると、シャロン首相の支持率は下降気味だった1カ月前の35%から59%に上昇した。今回のイスラエル 軍による軍事作戦「守りの壁」を支持する人は75%に上った。また、アラファト議長の「追放策」を62%が支持したからだ」(資料3)
このために、内閣には超保守派が入って連合政権が強化された反面、労働党は政権離脱ができなくなっっているようです。さらに、与党の保守党リクードにおい ては、シャロン首相以上に強硬な姿勢を取るネタニヤフ氏の人気が上昇しているということです(公共哲学フォーラム105参照)。
アメリカやイスラエルにおいては、過剰な愛国心やナショナリズムの結果として、悪事を行い手痛い敗北を喫するという歴史的体験がないために、このような事態が容易に起こると思えるのです。
■4.アメリカーイスラエル超国家主義批判
これは、戦前の日本と同様の、「超国家主義(ウルトラ・ナショナリズム)」と呼んでもよいのではないでしょうか。これまで私は「超国家主義」という概念 をーー丸山眞男に従ってーー戦前の日本についてのみ使用してきました。しかし、今回の事態を見て、アメリカーイスラエルにも適用できるのではないか、と考 え始めました。
かつて丸山眞男は、戦前日本の超国家主義を厳しく反省する論理を提示したとともに、冷戦と共に始まったアメリカのマッカーシズム (やソ連のスターリニズム)にも厳しい批判を行いました。マッカーシズムの吹き荒れるアメリカには、「ファシズム化」が始まっており、冷戦下にあっては 「国際的反革命の総本山となっった」アメリカを「戦後ファシズム」の代表例として批判したのでした(1)。
ここには、普遍的原理に基づいて言論を行う知識人の栄光が存在するでしょう。例えば、「自由」の原理によって、戦前日本の軍国主義を批判するが故に、翻って、「自由」を圧殺しているアメリカのマッカーシズムを批判しなければならないのです。
保守派の国家主義者は、しばしば丸山を「西洋贔屓」とか「西欧かぶれ」と見なして、ヨーロッパやアメリカを賛美する反面、日本を自虐的に批判したかのよう に描き出します。しかし、丸山は決して、現実に存在するアメリカやヨーロッパを無条件に賛美する「西洋贔屓」ではありませんでした。彼は、確かに西洋的な 「自由の理念」を擁護しましたが、それは普遍的な理念であるが故に、その理念によって、現実の西洋に対しても厳しい批判をすることがあり得たのです。
この精神を想起すれば、私達は、日本の国家主義や官僚主義を批判するだけではなく、現在のアメリカやイスラエルにおける「超国家主義」をも厳しく批判しな ければならないでしょう。丸山の場合、「超国家主義」が通常の「国家主義」と異なる所以は、公私が分化せずに、天皇制国家が「倫理的実体として価値内容の 独占的決定者」であったという質的特質に求めました(2)。この意味では、アメリカもまだ戦前の日本のような「超国家主義」にまでは至っていないかもしれ ません。しかしながら、自国の利益を「正義」と見做してそれを絶対視しその「正義」の名の下に他国民を犠牲にするという点では、現在のアメリカーイスラエ ルも、戦前の日本とは別形態ながら、やはり「超国家主義」と呼んでもよいように思えるのです。
そこで、一般的に、他国民を犠牲にしない「健全な 国家主義・国民主義」と区別して、他国民を犠牲にする国家主義を「超国家主義」と定義したらどうでしょうか。この場合、戦前の日本は「日本型超国家主義」 であったのに対して、現在のアメリカやイスラエルは「アメリカ型・イスラエル型の超国家主義」と言うことが出来ると思うのです。
さらに、アメリカにおける反戦の言論弾圧を考えれば、「社会の強制的なセメント化・同質化」というーー丸山が定義した意味におけるーーファシズム化が始まっているとも言えるかもしれません。
最近、学識のあるはずのアメリカ専門家や研究者の一部が、現在の状況においてもなおアメリカを賛美し擁護するのを目の当たりにして、私は驚いてしまいまし た。しかし、考えてみれば、それほど極端ではなくとも、大なり小なり日本人の多くは、心理的にアメリカを批判できなくなっているのかもしれません。
確かに、アメリカは戦後日本にとって、民主主義や地方自治のモデル国の一つであり、多くの知識人が、アメリカを批判することを躊躇するのも、心理的に理解 できなくはありません。しかし、この精神の構造こそが、国家主義の批判する「西洋(アメリカ)贔屓」「西洋(アメリカ)かぶれ」に他ならないのです。
自由という普遍的理念に基づいて戦前の日本超国家主義を否定する者は、その論理的帰結として、今日のアメリカーイスラエル超国家主義をも批判しなければな りません。逆に言えば、反「テロ」世界戦争における超国家主義を批判することのできない者には、日本軍国主義における超国家主義も批判する資格がないと 言って良いでしょう。
■5.大日本帝国とアメリカ世界帝国の自称「自衛戦争」
イスラエルやアメリカの主張に従って、この攻撃は「自衛戦争」だから正当だという反論があるかもしれません。既に様々な箇所でこの論理には批判を加えましたから、ここで繰り返すことはしません。ここでは、戦前の日本超国家主義との類似性に注意を喚起しておきましょう。
戦前の日本は、中国などを「侵略」すると称して戦争を起こしたでしょうか? 否、その場合にも「自衛」という名目が使われました。例えば、満州事変におい ても、日本が既に中国に軍事的に進出している事態を顧みずに、現地で起きた暴動などを背景に、(実際は柳条湖事件は、石原莞爾らの謀略であるにもかかわら ず)中国側が仕掛けた暴挙であるとして、正当防衛の戦いと自称して軍事的な侵略を行いました。これは、現在の反「テロ」戦争の論理とどこが違うのでしょう か? 一般的には9・11同時多発テロは、アメリカが仕掛けた謀略ではないとされていますが、過去の政策を反省せずに、事件に対して自衛戦争と称して軍事 力に訴える点は同じです。
当時の「大日本帝国」は、「帝国」の外交的・軍事的政策を反省することなく、「匪賊」討伐という「自衛」目的と称して 戦争を拡大していったのです。そして、第1次近衛内閣は、「国民政府を対手とせず」という声明を出して(1938年1月16日)、もはや引き返せない泥沼 に突入していきました。これは、シャロン首相が自治政府を「テロ支援体制」と決めつけ、パレスチナ自治政府のアラファト議長との接触を一切絶つと断行を宣 言した状況(昨年12月13日)とよく似ています。やはり、この断行声明から、今日のような戦争状態へと突入してしまったわけです。
こ の類似性に鑑みれば、かつての大日本帝国を批判する者は、現在のアメリカ世界帝国の反「テロ」世界戦争=蛮族討伐戦争を批判しなければならないでしょう。 そして、イスラエルの場合も、パレスチナ側の抵抗が占領に起因している以上、その「自衛戦争」も同断であると言うことができるでしょう。
■6.アメリカの国際機関クーデターとベネズエラ・クーデター失敗
一方で、ブッシュ大統領は調停を継続するとしながら、イラク攻撃を断念しないことを明言しました(資料5)。具体的にも、ラムズフェルド国防長官は、イラ クに対する国連査察の実効性を疑問視して、攻撃の口実を作ろうとしています。さらに、現に、イラクに設定した飛行禁止区域において、イラク防空施設を2回 攻撃しました(資料9)。
また、フィリピンへも軍隊が増派され、南部で実施されている米比合同軍事演習「バリカタン02―1」では、20日、米兵340人がバシラン島に送られて、これで参加の米兵は1000人となったそうです。
さらに、アメリカは単独行動主義=世界帝国主義を貫徹するために、国際機関で、自分の意に添わない人物を落選させたり、更迭させたりしています。まず、 19日には、京都議定書問題に関して、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の議長選挙で、議定書採択の原動力となった大気化学権威ロバート・ワトソ ン博士を落選させました(19日、資料7)。
また、あるMLで流れた資料13は、化学兵器禁止機関のブラジル人・ブスターニ事務局長に 対して、「1.アメリカにも対しても査察を要求し、2.イラクに査察官を受け入れさせた」という理由のために、アメリカが罷免を要求していることを告発 し、この不信任決議案を否決するように訴えています。(二つ目の理由は)本来は誉められるべきことのはずですが、イラクが査察を受け入れると、イラク攻撃 の理由がなくなってしまうのでアメリカの不興を買ったようです。これは、ラムズフェルド国務長官が国連査察の実効性に疑問を呈したという上述の動きと連動 しています。ガーディアン紙の迫力ある記事「米国が化学兵器禁止機関でクーデタ:イラクとの戦争に道を開くブスターニ事務局長解任策動」(ジョージ・モン ビオ)の冒頭は、次のように始まっています。
「日曜日に、米国政府は1カ月間計画してきた国際的クーデタを実行する。それは、我々の大 半が何も知らないうちに、静かになされる、気がつくときには手遅れになっているかもしれない。米国は、力を頼むグローバル体制を作るために、60年間にわ たる多国間交渉のシステムを転覆しようとしているのだ。
問題はとなっているのは、化学兵器禁止機関だ。国際機関の長がこのようなやり方で解任さ れることは、これまでになかった。これが行われるなら、今後、すべての国際機関は、こうした攻撃にまったく無防備になってしまうだろう。これによって、イ ラクの化学兵器について平和的に交渉する道が閉ざされてしまい、そうなれば、化学兵器を破壊するには、戦争以外にないということになる。」(資料14)
今日がクーデター決行の当日ですが、果たしてどうなるのでしょうか。さらに、クーデターと言えば、最近、ベネズエラで起きたクーデター失敗事件も、実はアメリカが関与していたことが判明しています。
クーデターで一度崩壊したように見えたチャベス政権は、貧困層に根強い支持があり、軍部を中心とするクーデターは二日で失敗しました。この反乱の実行部隊 を率いたバスケス陸軍司令官は、米軍による中南米軍人の養成機関「米軍アメリカ学校」の出身で、パナマの米軍基地にあったこの学校は「米軍クーデター学 校」とも言われ、卒業生はアルゼンチンやグアテマラでもクーデターを起こしたことがあり、中南米諸国は暫定政権に反対に回りました(資料14)。
これとは対照的に、米大統領補佐官は「チャベス政権は平和的なデモを鎮圧し、危機を引き起こした」と「自暴自得」論を展開して、クーデター政権を擁護して いました。そして、クーデター失敗後に、アメリカ政府高官がクーデター側の指導者と事前も政変当日にも接触していたことが明らかになり、チャベス大統領が 拘束中に米国飛行機を目撃するなどして、アメリカがクーデターに同意していたことが報じられています。政変中に暫定大統領に「就任」していたカルモナ前経 団連会長が米国の監視と支持について証言したので、これは疑いなくなりました(資料15-19)。
チャベス大統領は、キューバ、イラ ク、イランと親しく、アメリカのアフガニスタン攻撃を批判していたそうです。そこで、アメリカがこのような姿勢を不愉快に思い、民主的に選ばれた大統領に 対するクーデターを支持したものと考えられます。米国の自己利益に基づくこのような「非民主的」介入は、勿論今回が初めてではなく、特にラテン・アメリカ ではしばしば見られます。今回の事件では、ブッシュ政権が、反「テロ」世界戦争に反対する民主政権をクーデターによって崩壊させようとしたことが明らかに なりました。
失敗に終わったのが、不幸中の幸いです。国際機関のクーデターを始め、様々なクーデターの目論見が同様に失敗することを祈りたいと思います。
■7.聖誕教会包囲の象徴するものーー戦争と愛
このようにイスラエルは現に戦争を行い、アメリカはイラク戦を開始すべく様々な謀略を行っています。このような状況において、イスラエルに包囲されているベツレヘムの聖誕教会は、あたかも世界の現実と宗教的な愛との対照を表わす象徴のように思えます。
ここには、パレスチナ武装集団120人、パレスチナ市民約40人と修道士・修道女約40人がいます。しかし、イエス・キリスト誕生の馬小屋跡に立てられた というこの教会は、キリスト教徒にとっては一種の聖地なので、さすがにイスラエルも、ジェニンを始めとする他の場所のように壊すわけにはいかず、半月以上 も教会の包囲を続けています。時折、銃撃戦が伝えられますし、いよいよ食料も底をついてきたようです。ローマ法王庁やエルサレム総大司教は救出を訴えてい ますが、まだイスラエル側とパレスチナ側との間に合意は成立しません(資料20-22)。
教会のカトリック系フランチェスコ修道会の人 々は、パレスチナ人達と教会内部に共にいて、ミサをあげたりしているようです。教会側の人々にも生命の危険があり、銃撃されて死んだアルメニア人神父もい ます。外部の世界の戦争と殺戮、内部での宗派を超えた共存と祈りーーここには完全に対照的な二つの世界があります。
内部で、修道会の人 々とパレスチナ人との間がいかなる関係になっているのかは、よくわかりません。しかし、少なくとも戦ってはいないでしょうし、修道士や修道女は孤独感に苛 まされながらも生命が失われないことを精一杯祈っているでしょう。そして、ローマ法王は撤退をイスラエルに要求しそれが拒否されてからもカトリック教会 は、何とか無事に解放されるように仲介の努力をしています。
キリストの聖誕教会で、このような構図が生まれていることに、私は象徴的な ものを感じざるを得ません。パレスチナ問題は政治的・民族的な問題であると共に、宗教的な問題でもあります。民族宗教たるユダヤ教の中からキリスト教は生 まれ、そして民族を超えた普遍的な愛を説いたのでした。
それ故、宗教や民族の相違を超え、生命の危機に晒されているパレスチナ人達とと もにあり、またその解放のために努力している教会の人々は、キリスト教本来の普遍的な愛を遂行していると言ってよいでしょう。ブッシュ大統領が、キリスト 教の装いをして正戦というような宗教的な言辞を弄しているだけに、この姿は一層印象的です。荒涼とした世界の中に、本来の宗教的・キリスト教的精神を垣間 見ることができるような気がするからです。
新聞などに、照明弾に照らし出される聖誕教会の写真が写っていますが、その悲惨な状態にも拘わらず、その写真には痛切な美しさが感じられました。荒涼とした世界の中で、そこだけ次元が異なった世界であるかのように、聖堂が夜空に浮かび上がっているのです。
ユダヤ教とイスラーム、キリスト教とイスラーム、ユダヤ人とパレスチナ人というように、宗教や民族・国家をめぐる対立が、この反「テロ」世界戦争の根源に 存在します。しかしながら、本来の宗教的精神は、そのような差異を超えた人類としての同胞愛、友愛に存在するはずであり、そのような自覚によってこそ、こ のような危機を乗り越え、悲劇的な事件の再来を防ぐことができるでしょう。
キリストの生地であるが故に、戦場の中に祈りと愛のための聖 堂が浮かび上がっているのは、人々の心を浄化する一種の奇跡のような気がします。この愛の空間に存在する人々が、この危機を無事に脱出することのできます ように。そして、その普遍的な愛が、それを機に世界に広がり、パレスチナ戦争を、そしていずれは反「テロ」世界戦争を止めることのできますように。
注(1)丸山眞男「ファシズムの諸問題」「ナショナリズム・軍国主義・ファシズム」丸山眞男『増補版 現代政治の思想と行動』未来社、所収。
(2)丸山眞男「超国家主義の論理と心理」、同上。
小林正弥
公共哲学ネットワーク代表
資料は基本的に省略。
———————————————————————–資料3:———————————————————————–
http://www.ichimy.com/page/mail_news/g20020413-4.nwc
———————————————————————–資料5:———————————————————————–
http://www.asahi.com/international/mideast/K2002041800040.html
———————————————————————–資料6:———————————————————————–
http://www.asahi.com/international/mideast/K2002041702284.html
———————————————————————–資料8:———————————————————————–
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=138027
———————————————————————–資料9: ———————————————————————–
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=138887
———————————————————————–資料10:———————————————————————–
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/chuto/200204/17-04.html
———————————————————————–資料11: ———————————————————————–
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/chuto/200204/19-14.html
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=139201
聖誕教会ろう城のパレスチナ人、食料がほぼ底をつく
2002 年 4月 21日
———————————————————————–資料12:———————————————————————–
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=139178
米ワシントンで大規模市民デモ、イスラエル軍事行動などに抗議
2002 年 4月 21日
———————————————————————–資料13:米国が化学兵器禁止機関でクーデタ———————————–
hagitaniです。
以下、ものすごく泥縄なのですが、どうぞよろしくお願いします。(長文注意)
緊急の重大な情報と要請が、米国の反戦ML 9-11 Peaceから入ったので、訳し、流します。
不明な点が少しありますが、緊急なので、流します。ご協力ください。
転載してください。(訳は一部簡略にした箇所がありますので、ご了承ください。また、一部は不正確である恐れもあり、その点のご指摘は歓迎します。)
化学兵器禁止条約の実施機関である化学兵器禁止機関のブラジル人の事務局長が、米国の意向にそわないという理由で、米国は、くりかえし、罷免の動議を出 し、機関の規則に反した裏工作を続けた結果、今日、4月21日日曜日に行われる会議【会議の場所については情報なし。問い合わせ間に合いません】で、この ブスターニ事務局長の解任動議を通すだろうといわれています。欧州が米国の脅しに負けて、米国についてしまいそうです。以下の知らせによれば、英国がキャ スチングボートを握っているとのことです。
きょう米国のごり押しが通れば、
1) 米国は狙い通りイラクと戦争をすることができます。ブスターニ氏がイラクに化学兵器禁止条約調印を説得しようとしているのが、米国にとっては気に入らないのです。戦争以外に道はない、というシナリオが成立しなくなるからです。
2) 今後、他のあらゆる多国間協議のための機関が、米国の一元的支配の意向に逆らわないイエスマンの牛耳る場となってしまいます。
もう日がないため、メールをこの申し入れの主催団体9-11peace(opcw@9–
11peace.org )と外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/comment/q_a/index.html 記
入欄あり)に送ることしかできませんが、よろしくお願いします。
[以下転載歓迎]
緊急のお知らせとお願い
米国のクーデタをやめさせよう
文化人たち立ち上がる
あなたもご協力ください
エリ・パリサー (9-11Peace)
21日、日曜日に米国は、化学兵器禁止機関(OPCW 化学兵器禁止条約にもとづく条約実施推進機関、在ハーグ)の事務局長、ジョゼ・マウリシオ・ブスターニ氏を罷免するよう働きかけています。
ブスターニ事務局長のしたことは、化学兵器禁止という任務を誠実に遂行してきたこと。
英紙ガーディアンによれば、同氏の指導のもと、調査官が監督した化学兵器の破棄は、世界の化学兵器施設の2/3、200万点にのぼります。また、条約批准 に消極的だった諸国を促して、過去5年間に、加盟国を87カ国から145カ国に増やしました。これはあらゆる多国間条約機関のうちで最も急速な伸び率で す。
しかし、これが米国国務省には目の上のコブ。まず、ブスターニ氏は米国を他の諸国と別扱いしないで、条約遵守を要求したからです。氏が選任した査察官を、米国はいやがり、まるでイラクのようです。
第二に、彼はイラクにも積極的に働きかけて、査察官を受け入れさせました。これでは、第二の湾岸戦争を支持する理由がなくなるではないか。だから、国務省はブスターニ氏の退陣を望んでいるのです。
今週末の会議で、米国は、ブスターニ事務局長不信任案を提出しますが、氏の何が具体的な落ち度なのかは明確にしないままです。
だが、英国がこれに同調すれば、米国政府の代理機関にすぎない国際・多国籍機関がまたひとつできてしまいます。
どうか、川口順子外務大臣に、化学兵器禁止機関の独立性を守るため、ブスターニ事務局長を支持するよう緊急に要請してください。
また、私達のところにメールを送ってください【I join you supporting Mr Bustani. と書き、氏名と国籍と住んでいる県か市くらいまで書いてください】。私達は支持者の数をカウントしています。メールアドレスはopcw@9-11peace.orgです。
この要請の発起人は、ピーター・ガブリエル、アニー・レノックス、ラディオヘッドのトム・ヨーク、ブライアン・イーノその他です。
以下は、ブライアン・イーノが起草し、多数の文化人が署名した書簡、および、ジョージ・モンビオが書いた事情を解説した記事です。
2002年4月19日 エリ・パリサー
2002年4月16日付ガーディアン紙(英国)より
原文 http://www.guardian.co.uk/Archive/Article/0,4273,4394862,00.html
米国が化学兵器禁止機関でクーデタ
イラクとの戦争に道を開くブスターニ事務局長解任策動
ジョージ・モンビオ
日曜日に、米国政府は1カ月間計画してきた国際的クーデタを実行する。それは、我々の大半が何も知らないうちに、静かになされる、気がつくときには手遅れ になっているかもしれない。米国は、力を頼むグローバル体制を作るために、60年間にわたる多国間交渉のシステムを転覆しようとしているのだ。
問題はとなっているのは、化学兵器禁止機関だ。国際機関の長がこのようなやり方で解任されることは、これまでになかった。これが行われるなら、今後、すべ ての国際機関は、こうした攻撃にまったく無防備になってしまうだろう。これによって、イラクの化学兵器について平和的に交渉する道が閉ざされてしまい、そ うなれば、化学兵器を破壊するには、戦争以外にないということになる。
化学兵器禁止機関(OPCW)は、化学兵器禁止条約の実施機関で あり、化学兵器の開発製造保管施設を査察し、兵器の廃棄を監視することを任とする。その長が、ワーカホリックなブラジル人外交官、ジョゼ・ブスターニ氏 だ。氏は、過去5年間に、ほかの誰よりもよく世界平和の推進に貢献した。同機関の査察官は、200点の化学兵器と、世界の化学兵器施設の2/3の廃棄の監 視を行った。氏は、渋る諸国をなんとかなだめすかして、同条約に加盟させたので、加盟国の数は同氏の任期中に87カ国から145カ国に増えた。これは、近 年どんな国際機関で見られたよりも急速な伸びである。
ブスターニ氏は、その異例の功績により、最初の任期も終わらない2000年5月に加盟国満 場一致で再選された。昨年コリン・パウエル米国国務長官は、氏の「水際だった」働きに感謝の書簡を送っている。だが、今やすべてが変わった。その功労を賛 えられた人物が、民衆の敵として糾弾されているのだ。
今年1月、米国国務省は、事前のなんの警告も説明なく、いきなり、ブラジル政府に 対して、ブスターニ氏の「管理スタイル」が気に入らないという理由で、同氏罷免を要求した。これは、「事務局長はいかなる政府からも指令を求め、あるいは 受けてはならない」という化学兵器禁止条約の規定にまっこうから反している。3月には米国は、「財政上の管理不行き届き」「職員の士気をそいだ」「偏って いる」「浅慮な発案をする」などと事務局長を非難し、評判を落としたくなければ辞職すべきだと警告した。
これまた条約を踏みにじる行為 である。条約は、加盟国が職員に「影響を与えようとする」ことをつよく禁じているのだから。事務局長は辞任を拒否した。3月19日、米国は、ブスターニ不 信任案の議決を要求。これは通らなかった。すると米国は、今度は、多国間外交の歴史では前例のないことをした。氏を追い出すための「特別会合」を召集した のである。この会議が、21日、日曜日に始まる。今度は、米国の意向が通ってしまう可能性が高い。
3月に議決で破れて以来、米国は、同 機関の最大の出資国としての立場を利用し、他の弱い国に、支持しないと分担金の支払をやめると脅しをかけてきた。先週、ブスターニ氏が私に語ったところで は、「欧州は、米国が条約を放棄することを恐れるあまり、私を切る腹を固めている」という。氏にとって最後の望みは、これまで同機関を模範的に支えてきた 英国が、抵抗してくれることだ。日曜日の会議は、ブレア政権にとって、多国間関係か「特別な関係」かという、これまで直面したことのない選択を迫るものに なる。
米国はまだブスターニ氏に対する非難の具体的内容も決めていない。OPCWが財政的に苦しい状態なのは確かだが、それは主に、米 国が一方的に自国の予算に上限を設けたり、分担金を払わなかったりしたためなのだ。OPCWの会計は最近監査を受けたばかりだが、完ぺきに健全財政であ る。職員の士気は、これほど資金不足の機関としては異例に高い。ブスターニ氏のほんとうの罪状は、最後の二点「偏っている」ことと「浅慮な発案をする」こ とだろう。
偏っているという非難は、まさしくOPCWが偏っていないことを示している。米国にある施設を調査するときも、他の国のと変わりない 厳格さで行ったのだから。しかし、米国は、まるでイラクのように、自国の利害に反すると見做す国からの化学兵器査察官の受け入れを拒否したのであり、入国 を認めた査察官に対しては、見ていい所といけない所をを指図したのである。査察の通知を受けなかった場所については査察を阻止し、査察官が化学物質の標本 を採るのを禁止する権限を大統領に与える特別な法案も成立させた。
浅慮な発案とは、ブスターニがその任務の通りに、サダム・フセインに対し、化 学兵器禁止条約への調印を説得しようとしたことをさす暗号である。イラクが同意すれば、他の加盟国(もちろん米国は例外)と同じように、通常の査察と不意 の査察を受けることになる。ブスターニの試みはこれまでのところ成功に至っていないが、これも、彼の見るところでは、国連安保理の支援が得られないから だ。そのためフセインは、調印してもメリットはないと察しをつけてしまったのである。
安保理が、イラク説得を支持してくれれば、米国は 戦争にかわる選択肢を得ることになるのだとブスターニは語った。フセインがUNMOVICからの査察官を受け入れるとは、想像しがたい。UNMOVIC は、UNSCOMのあと、それに代わるものとして安保理の支援でできた機関であり、米国政府が送り込んだスパイが大勢入っていることがわかっているのだ。 几帳面に公平な態度を維持する機関からの査察官なら、フセインが受け入れることは、はるかに考えられることだ。事実、1998年にUNSCOMがイラクか ら退去させられたときも、OPCWは、発見した武器の廃棄処分のために入国することを認められたほどなのである。ブスターニが辞めさせられるのは、米国が 解決を望んでいない問題に解決策を提案したためなのである。
「アメリカがやっていることはクーデタだ」と、ブスターニは語る「条約を変 え、事務局長を辞めさせるために野蛮な力を行使するのだから」。化学兵器禁止条約に、そのような行為を認める条項はないので、米国はまっこうから規則を破 る挙に出た。それがまかり通れば、OPCWは、UNSCOMと同じように、致命的に役割が低下してしまう。米国の思い通りになるということは、すべての多 国間機関の独立性を脅かす結果を招くのである。
だからこれは、英国が世界の動かし方を大きく左右することになる、稀有の機会のひとつなのだ。英 国は、最も密接な同盟国を支援するために、多国間関係を破壊し、戦争以外の道をふさいでしまうことを選ぶこともできる。そうでなく、世界の平和と国際法を 守るため、米国に挑戦する道を選ぶこともできる。英国政府がそのような原則通りの立場を採るとしたら、それは、この政府の権力を成り立たせている国民が、 政府が耳を貸さずにいられないほどのノイズを起こす場合だけである。米国が戦争への道を突き進むのをやめさせるために、我々の持っている時間はあと5日で ある。
FROM THE GUARDIAN
Tuesday April 16, 2002
http://www.guardian.co.uk/Archive/Article/0,4273,4394862,00.html
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