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教育基本法の理念と公共性問題――改定に抗して大結集を

Posted: on 12:59 pm | 教育基本法改正問題

 2006-12-14「教育基本法の理念――改定に抗する大学人有志の連帯アピール」 東京大学教育学部

教育基本法の理念と公共性問題――改定に抗して大結集を 小林正弥

 公共哲学と教育基本法

(1)現在の公共哲学公共哲学宣言(注)   

山脇直司・小林  声明の考えもあった。MLや朝日新聞での批判など   

稲垣久和、千葉眞  アカデミックな思想的批判が必要。憲法問題と同じように、庶民的保守層にも反対を拡大するための議論を。

(2)戦後公共哲学   

南原―丸山公共哲学  南原繁シンポジウム、立花隆 8・15憲法と違い、日本側のイニチアチブ。「押しつけ教育基本法論」はない。この意義。南原繁 教育委員会委員長、教育刷新委員会(副委員長、委員長)1946-47年 

 第1特別委員会(務台理作、森戸辰男、天野貞祐、河井道ら)前文・1条・2条審議

貴族院憲法改正特別委員会 「教育勅語に代わるもの‥を希望する」

生みの親(田中耕太郎と南原)

      人間性の涵養(「人格の完成」)、「個人の尊厳、真理と平和を希求する人間の育成、

      普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造」    

⇔南原  「新日本文化の創造」「人間革命」「精神革命」

     (教育委員会法→)地方教育行政法・教科書法に反対する十大学長声明

 基本法擁護の精神に基づく改正反対

(1)コミュニタリアニズム的基本法

徹底したリベラリズム  価値の排除 教育基本法廃止論を帰結   

                                         基本法否定の精神による擁護という逆説

 ⇔コミュニタリアニズム 美徳倫理学 人格の完成(perfectionism)、道徳・美徳・「資質」 

 ただし、道徳の法制化には消極的、教育は重視  

平和憲法  コミュニタリアニズム的憲法    

教育基本法 コミュニタリニズム的基本法  前文の付加

(2)ソクラテス的精神    

   ソクラテス的精神  自由な学芸精神、人間の魂への配慮       

  学問的探求(無知の知)+魂への配慮        

  ⇔(基本法)真理・学問の自由+人格の完成・諸徳

  教育基本法 「人格完成+教育の自由」→前者は否定せずに増強・修正し、国家統制を可能にする改定案。      

…「人心の荒廃・道徳的退廃などに対する懸念」という人心への対応       

この要請を軽視・否定するのではなく、直視する必要性。そうでないと庶民的な保守層に反対が広がらないのではないか。   

典型的には2条 個々人における「心の自己統御」は倫理的には極めて重要、しかし…「心の国家支配」の危険  

政治的文脈  教育統制の強化、国家主義的教育  16条・17条 

         →2条(教育の目標)の悪用が可能になる。

2条における様々な美徳 美徳倫理学の観点から見ると、個々の美徳は基本的には健全、貴重。

       しかし、倫理学の問題は美徳の内容と共に(衝突の際の)その優先順位と方法。                 

       そこで、16条・17条における国家統制によって、優先順位が決定され強制されると危険になる。     

       例:5項 「我が国と郷土」と「他国を尊重し、国際社会の平和と発展」の関係 

       ⇔グローバル・ナショナル・ローカルという複層的アイデンティティー       

双方とも大事だが、単純に列挙することにより、国家的観点を地球的・国際的観点に優先させることが問題。       

実際には、国旗国歌法のように、国家主義的統制に用いられる危険性。  

逆に言うと、様々な改正条文については、それぞれ検討が必要。全面的に悪いとは言えない。

 公共の精神  

(1)経緯と文脈

2条3「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。」 これ自体は批判すべきではない。現行基本法の精神に立脚して明確にしたと考えられる。      ――公共民的美徳(civic virtue)、市民性の教育という観点から肯定。中にはこの点に着目してこの改定案を肯定的に評価する議論すら存在。  

しかし、実際には第1条(教育の目的)において、「人格の完成」と並んで、「国家及び社会の形成者」とされた「心身ともに健康な国民の育成」が2大目的とされている。すなわち、国家に限定された国民教育   

具体的には、中央教育審議会・中間報告素案(2002.10月)     

「『公』に関する国民共通の規範の再構築…国や社会など『公』に主体的に参画する意識や態度を養う。伝統、文化を尊重し、国や郷土を愛する心を持つ」 

→異論(「『新たな公共』の概念が個人を無視した感じにならないように工夫すべきだ」)など続出。 

→中間報告(2002年11月)「新しい『公共』を創造し、21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成」     

「公共」に関する国民共通の規範の再構築

  「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養の視点

  日本人のアイデンティティ(…)の視点    

「地球環境問題など、国境を超えた人類共通の課題が顕在化し、国際的規模にまで拡大している現在、互恵の精神に基づきこうした課題の解決に積極的に貢献しようという、新しい『公共』の創造への参画もまた重要となっている」 

→最終答申(2003年3月)  トランス・ナショナルな「新しい公共」を弱体化     

「新しい『公共』を創造し、21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成」

「阪神・淡路大震災の際のボランティアに見られるように、互いに支えあい協力し合う互恵の精神に基づき、新しい『公共』の観点に立って、地域社会の生活環境の改善や、地球環境問題や人権問題など国境を越えた人類共通の課題に積極的に取り組み、貢献しようという国民の意識が高まりを見せている。…自らが国づくり、社会づくりの主体であるという自覚と行動力、…『公共』の精神…」 

(2)「古い公」か「新しい公共」か    

 公(=政府・国家)/公共(人々が水平的に形成)     

 中間報告素案 公  → 中間報告  公共             

「国と社会の公共」+トランス・ナショナルな「新しい公共」               

 →最終答申    国家・社会の形成に参画                       

          国づくり、社会づくり               

 →政府案     社会の形成に参画    

結局、前文や2条では「公→公共」 「国と社会の公共→主体的に社会に参画…」    

表現は温和に。しかし、トランスナショナルな「新しい公共」は法案から削除、弱体化。    

他方、第6条・第8条では学校ないし私立学校が「公の性質」を有するとされているこれは「公共」の方が適切。つまり、「公/公共」が同意味に(稲垣久和)    

新憲法草案 「公益及び公の秩序…」(12条など)に比べると、教育基本法改定案の方がよいが、その「公共」は「公」という意味に解釈されてしまう危険性。

(3)「新しい公共」の理想的案  

日本人・国民教育→地球的・複層的アイデンティティーを持つ公共民育成。地球的アイデンティティーを国家的アイデンティティーに優先することを明示すべき。「社会の形成に参画」だけではなく、「公共的な政治参加・自治」も付加。   

14条の「政治教育」における「良識ある公民として必要な政治的教養」に、「政治的参加」も加えるべき。これらができないようなら、改定はすべきではない。

 活憲・活(基本)法と大結集の必要性

(1)活基本法  活憲

教育の改革の必要性→それを可能にするのは、基本法改定や廃止ではなく、基本法の精神の実行  人格の完成を可能にする教育を。平和教育など。現在の新国家主義的・新自由主義的改革とは異なった真の学問改革・教育改革の必要性。     

現行教育基本法の精神に基づく、新たな精神革命を。 

→憲法問題と連携した大結集を。大学をはじめ各々の場と地域で。

(2)  改定が強行された場合

・「公共の精神」が「公の精神」と解釈されずに「公共」の精神と解釈されて自治の精神が涵養されるように。現行憲法ならば可能。憲法改定がなされると極めて困難に。

・残る根本法規は憲法のみ。憲法改定に対して、今から大結集を。

・大学人有志の憲法改定反対声明と大学間ネットワークを。

参考文献:

1.公共哲学ネットワーク編『地球的平和の公共哲学――「反テロ」世界戦争に抗して』(公共哲学叢書3、東京大学出版会、2003年)、山脇直司・小林正弥「公共哲学宣言」。

2.南原繁研究会編『初心を忘れたか――南原繁と戦後60年』(to be 出版、2006年)

   堀尾輝久「南原繁と戦後教育60年」

   山口周三「教育基本法のめざしたもの」参考資料:●中間報告

「公共」に関する国民共通の規範の再構築
(「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養の視点)
   人は,一人だけで安全に生きていくことができるものではない。自らの生命や自由を守り,幸福を追求するためには,個人が集まり,その信託によって社会や国という「公共」を形作り,それを通じて自らの安全や権利を享受できるようにすることが必要なのである。そして,このような「公共」を作り,維持することができるのは,その構成員であり主権者である国民一人一人であって,ほかのだれでもない。
   このことを踏まえ,21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成を図るためには,政治的教養(政治に関する知識や判断力,批判精神など)に加えて,国や社会など「公共」に主体的に参画したり,共通の社会的なルールを作り,それを遵守する義務を重んずる意識や態度を涵養することが大切であり,個人の尊重との調和を図ることが重要である。また,地球環境問題など,国境を越えた人類共通の課題が顕在化し,国際的規模にまで拡大している現在,互恵の精神に基づきこうした課題の解決に積極的に貢献しようという,新しい「公共」の創造への参画もまた重要となっている。

●最終答申

新しい「公共」を創造し,21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成   自分たちの力でより良い国づくり,社会づくりに取り組むことは,民主主義社会における国民の責務である。国家や社会の在り方は,その構成員である国民の意思によってより良いものに変わり得るものである。しかしながら,これまで日本人は,ややもすると国や社会は誰かがつくってくれるものとの意識が強かった。これからは,国や社会の問題を自分自身の問題として考え,そのために積極的に行動するという「公共心」を重視する必要がある。
  
近年,阪神・淡路大震災の際のボランティア活動に見られるように,互いに支え合い協力し合う互恵の精神に基づき,新しい「公共」の観点に立って,地域社会の生活環境の改善や,地球環境問題や人権問題など国境を越えた人類共通の課題の解決に積極的に取り組み,貢献しようとする国民の意識が高まりを見せている。個人の主体的な意思により,自分の能力や時間を他人や地域,社会のために役立てようとする自発的な活動への参加意識を高めつつ,自らが国づくり,社会づくりの主体であるという自覚と行動力,社会正義を行うために必要な勇気,「公共」の精神,社会規範を尊重する意識や態度などを育成していく必要がある。  

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