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本庄高校白熱教室の報告

Posted: on 3:58 pm | 対話型講義の情報

本庄高校白熱教室の報告


1,はじめに

 今回の本庄高校白熱教室のテーマは『私の幸福論』だった。副題は「これからの人
権教育の話をしよう」。『私の幸福論』というテーマを選んだ理由は、生徒がなじみ
やすく、自分の存在を大切に思い、幸せな人生について考えられるようにとの思いか
らだ。また、人権教育の観点にたったのは、個人の幸せを考えるには、社会のあり方
を問うことが重要だと考えたからだ。人権教育は、「自由」について考えを深めつつ
自己統治(self-government)につながっていく道だと、私は思う。


2,授業の展開

 本授業に先立ち、次のような予習を生徒に指示した。「幸福を阻む大きな問題とし
て差別がある。差別とは人間の自由を奪うこと。私たちが探究し守るべき『自由』と
は何か、考えておこう」
 本番では、はじめに1965年に出た同和対策審議会答申を紹介した。「同和問題
とは、日本国民の一部の同胞が、伝統や習慣に束縛されて『自由な意志』で生きるこ
とを阻害されている問題」とある。導入は次のフリップを使用し、「自由とは何か」
という私の問いかけで授業が始まった。
                
                 自由
   ・他人の命令や自分の欲望に支配されないこと(=自律)  カント
   ・自分の本質であろうとすること             ヘーゲル
   ・合意によって自分が選ぶこと              ロールズ

 さっそく生徒は、「自分の思うとおりに生活すること」「「ルールがあっての自
由」などと声を上げた。私はサルトルの「人間は自由という刑に処されている」とい
う言葉を引き合いに、「自由」は単に解放を意味するのではないと意識づけた。「で
は何だろう」と次のフリップに移り、問題を示した。

                例1  
    ある男子生徒が、好きになった女生徒に自分が被差別部落出身で
   あることを告げようか、黙っていようかと悩んだが、最後は勇気を
   出して告げた。きみが告げられる側だったら、何と答えるだろうか。

生徒A「自分の立場を理解することは大切なことだが、出身で差別されることが間
違っていると思うなら、自分から差別の対象であると名乗る必要はないと思う」
生徒B「相手を信じるからこそ告げる。ダメだったらダメ。でも受け入れてもらえた
ら、もっと好きになっちゃう。相手を真剣に思うからこそ告げる」
どの生徒も、何が善なのか考えて「告げる」「告げない」を判断していたようだ。こ
の場面はテレビで放映された。
 次に「告げられる側だったら、どう思うか」と問うた。立場を変えた生徒Bが、
「中学で部落差別を学んで厳しさを知っている。だから、勇気を出して言ってくれて
ありがとうと言う」と発言した。他に「気にしない」「どう答えていいかわからな
い」「大切なのは相手自身」という意見があった。
 対話が進む中である生徒が、自問するように「部落はなぜ差別されるのだろう」と
質問した。カメラが寄った。私もその言葉に注目し、「なぜ差別されるのか」ではな
く、「なぜ差別(・・)する(・・)の(・)か(・)」考えようと、返した。「いつの時代
でも、どこにでも差別する人と差別しない人がいる。被差別部落に『差別される必然
性』はなく、差別する側に『差別する原因性』があるのだ」私は、被差別部落出身者
は自分の存在を否定しなくていいというメッセージをそこに込めた。「部落差別がな
くなるべきであって、被差別部落(故郷)はなくならなくていいのだ」生徒は、「あ
あ、そうか」と納得し議論が進んだ。
 次に、「差別的日本人」問題というコンセプトで、話題を民族差別にかえ次の質問
をした。
         
          例2 私と結婚するなら、朝鮮人になれるか。
   
「自分を捨ててまで朝鮮人になる必要はない」と言ったのはW君だった。彼は両親の
母国アメリカと日本を大切にしたいと考えていた。ブラジル国籍のR君も同様の意見
だった。これに対して「自分を持っているからなれないと言った人もいるけど、私は
自分があるからこそ朝鮮人になっても自分でいられる」という反論が出た。また、
「自分の生まれた土地は誰でも大好き。好きになった人も自分も相手の国に同化しな
いで、相手の故郷を好きになればいい」という意見も出た。さらに「アメリカ人やブ
ラジル人になることには抵抗ないが、朝鮮人になることには抵抗感がある」と思った
という生徒もいた。「なぜ差別されるのか」ではなく、こうして「なぜ差別するの
か」と考えると、差別の原因が見えてくる一方、差別される存在ではない、ありのま
まの部落や朝鮮に出会えたといえる。
そこで生徒は、人との違いを優劣で見ない、「みんな違ってみんないい」という地平
に立った。「部落差別や民族差別はなくなるべきだが、被差別部落や朝鮮民族は当然
ながら大切なのだ」というメッセージを共有したのだ。このあと、議論は被差別部落
出身者や在日朝鮮人は、自分の子どもに両親の歴史(=自分が生まれるまでの物語)
を教えるか、親の苦労話も子どもに教えるべきかなどに発展した。多くの生徒から
「自分の子どもにはアイデンティティを持たせたい」「親の苦労話は子どもに勇気を
与える」などの意見が出た。そして、次のフリップを出してレベルの高い生き方
(善)について提示した。

       「位置を持ちつつも自由な自己」 M・サンデル
       『夜と霧』            フランクル 

 かつて、本庄高校で自分の母親が在日韓国人であることを知り、そのことを大切に
育て、たった一人チマチョゴリで卒業式に出た生徒がいた。今ロンドンで芸術家とし
ての道を歩き始めているS、彼女は私の誇りだと紹介した。生徒の感想には「自分一
人だけでもチマチョゴリで卒業式に出席したSさん。それを共に喜んだ家族や先生た
ち。どれもすてきな生き方だな」と共感するものが多かった。 終わりに私は、水平
社宣言にふれ、フランクルの麦畑での体験を話し、「何人も不正をする権利はない。
例え、不正に苦しんだ者でも不正をする権利はない」という言葉を紹介した。そし
て、次の授業でその意味について深めようと予告し授業を閉じた。


3,授業後のこと

 例1で発言した生徒Aはこんな感想を書いた。「私には部落がよくわからないけ
ど、部落出身の人にしか分からない視点があると思うし、部落にもよい点があるは
ず。私はそういうことをもっと勉強して『部落いいね!』って言えるようになりた
い」
 撮影から数日すぎた放課後、一人の生徒が私のところに来た。白熱教室で発言した
生徒の一人だ。「実は、私のお父さんは被差別部落の出身です」という。私は、「君
はとても大切なものをお父さんからもらったね。きっと豊かな人生を送れる。これか
ら一緒に考えていこう」と話した。彼女は笑顔で「はい」と答えた。



本庄高校 秋山二三夫

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