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戦争宣言予告編:悪夢のシナリオ 小林正弥(千葉大学)

Posted: on 1:21 pm | 主張・意見・コメント(opinions), 平和問題

1.戦争宣言予告編:悪夢のシナリオ

昨日(8日)、対イラク国連安保理決議が採択されました。これで、米議会武力行使容認決議、ブッシュ政権中間選挙勝利(5日)というように、議会・世論・国際社会という「3種の神器」(朝日、朝刊)が揃い、イラク戦の準備態勢が整いました。とりあえず、イラクは決議を受諾するでしょうが、査察の過程で問題が生じ、アメリカは開戦へと向かうことが予想できます。ブッシュ大統領は、イラクが無条件受諾をしない場合は「最も厳しい結果」を招くと警告しましたが、これは「戦争宣言」の予告のようなものでしょう。

このMLでも、早い時期にはイラク戦に至る危険を警告していましたが、最近は誰の眼にも明確な事実になっているので、敢えて書く気が起こりませんでした。それでも、今日書く気になったのは、さらに危険な兆候が、他に同時並行的に現れているからです。

バリ島・イエメン・フィリピンなどのテロやロシアのチェチェン・テロは、テロが世界的に拡大したことを示しています。アル・カーイダなどが関与を認め、その背後にビン・ラーディンの計画が存在することがインターポールから示唆されています(資料1,2)。これは、世界の「パレスチナ」化、戦争の「世界戦争」化と言うことができるでしょう。

さらに私が戦慄したのは、イスラエルで労働党が政権から離脱し、右派政権がさらに右傾化することが確実になったことです。タカ派のモファズ元参謀長官が新国防相に、またネタニヤフ氏が外相に就任し、1月の総選挙に向けて、外相とシャロン首相との角逐が始まりました(資料4,9)。いずれが党首選で勝つにしても、総選挙でリクードが勝利することは避けられそうもありません。その上に、ネタニヤフが首相になれば、アラファト追放などの強硬策を加速するでしょう。シャロン氏が勝ったとしても、ネタニヤフとの対抗上、さらに右傾することは間違いないでしょう。もはや、閣内の労働党の牽制が存在しなくなるのですから。

さて、イラクが査察を受け入れてから、トラブルが生じてアメリカが開戦を行うまでに若干の時間がかかるでしょう。年内のクリスマス前に始まるという観測が強くなっていますが、新年になってから、1月か2月以降になるかもしれません。今回の決議では、7日以内にイラクが決議受諾を表明し査察が行われるとすれば、約10日後(11月18日ごろ)に先遣隊、45日以内(12月23日まで)に本隊が査察開始、査察開始後60日以内に安保理に報告(来年2月21日まで)というスケジュールになっています。従って、本隊の査察が何らかの形で妨害されたということになれば、年内の開戦が行われる可能性がありますし、査察の報告の結果攻撃するのであれば、2月頃ということになりましょう。

もし2月になれば、その前にイスラエルではリクード超タカ派内閣が成立することになるでしょう。アメリカはイラク戦前後にこのような事態が生じることを避けたかったのですが、イスラエル内政上の事情でこのような時期に選挙が行われることになってしまいました(資料8)。イラク戦の最中には選挙を延期する可能性もあるようですし、選挙前にイラク戦が行われる可能性もありますが、暫定的選挙管理内閣自体が超タカ派内閣ですから、危険性に変わりありません。

もしイラク戦の開始が遅れた場合には、ブッシュ政権が中間選挙で勝利した直後に、国連安保理決議が出たように、新年の1月か2月には、イスラエルでリクード政権が勝利した後に、アメリカが開戦するという流れになる可能性があるような気がします。アメリカやイスラエルで選挙によって「民主的」に世論による信任を得て、イラク戦やアラファト追放へと展開させるわけです。これほど、一国民主主義の限界を明確に示す出来事はありません。後世からは、「衆愚政」と批判されることを信じて疑いません。

世界各地でテロが起こるだけではなく、アフガニスタン戦に加えてイラク戦が開始されれば、「反テロ」戦争は、間違いなく「反テロ」世界戦争へと展開したことになるでしょう。以前は反「テロ」世界戦争と書いていたのですが、最近「反テロ」世界戦争という表記に変更しました。なぜなら、イラク戦は、「大量破壊兵器開発」を口実としており、実は「テロ」ないし「反テロ」と論理的な関係はないからです。

リクード超タカ派政権はアラファトら自治政府に強硬策を取るだけではなく、イラク戦でも過激な反応を行うことが懸念されます。万一、アメリカの開戦後にイラクがスカッド・ミサイルなどをイスラエルに打ち込むと、本格的反撃を企てる危険を感じます。今回のイラク戦においては、湾岸戦争時のようなイスラエルの自制は全く期待できません。既に、イスラエルはアメリカと迎撃ミサイルの発射演習を行ったり、公開したりしています(資料10,11)。

勿論、アメリカの攻撃やイスラエルの反撃によって、莫大な人命の犠牲を出してフセイン政権は崩壊するでしょう。ここまでで悪夢のシナリオは十分すぎるほどですが、「反テロ」世界戦争はまだ終わらないだろうと憂慮します。

資料6,7にあるようなイスラエルの姿勢は、アメリカの外交政策とも関連します。シャロン首相らは、イラクが終われば、次なる標的として、イランを対象とすべきだと主張しています。これは、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言と連動しています。現時点ではブッシュ大統領もイラクと北朝鮮とを区別する姿勢を示していますが、政権内部には北朝鮮武力攻撃を主張する超タカ派もいます。そこで、フセイン政権を打倒した後では、さらに「大量破壊兵器」を保持している北朝鮮が打倒の対象として浮上する可能性も存在するでしょう。

ブッシュ大統領は、2004年大統領選での再選へ意欲を露わにして、しかもタカ派のチェイニー副大統領を維持するという方針を明確に打ち出しました(資料3)。これは、現在のような戦争政策を、2004年までだけではなく、2004-2008年までも続けることを意味するでしょう。しかも、2008年の自らの後継者として、内心では(今回再選した)弟のフロリダ州ジェブ・ブッシュ知事を考えているようです。前回の大統領選における集計混乱で弟が兄の当選を助け、今回は兄が弟の再選を助けて、将来大統領職を引き継がせるようなことになれば、政治の私物化ないしネポティズムも甚だしいでしょう。父・兄・弟と続けば、正しくブッシュ王朝のアメリカ世界帝国(!)ということになりかねません。

このようなことが目論見通りに実現するとは決して思いませんが、この種の野望を実現するために、ブッシュ政権は、持続する限り、戦争を世界各地で続けようとするでしょう。経済などの内政に争点が移行した途端に、民主党へと支持が移行する可能性が高いからです。「民主主義の帝国」であるが故に、帝国創設を企てる大統領は、民衆の支持を持続させるために、継続的に危機を引き起こし「帝国」の確立を進めようとするでしょう。

他方、パキスタンやトルコの総選挙でイスラーム系ないし原理主義的な政党が伸長したのは、当然予測されることとは言え、やはり不気味です。トルコは、政教分離が進みEU加盟が問題になっているなど、イスラーム圏ではもっとも「近代化」ないし西洋化を進めていた国家なので(スカーフ禁止政令)、その意味でも逆行する動きは懸念の材料です(資料11,12)。まだ本格的な兆候は現れていませんが、イスラーム地域の穏健派政権が打倒されて原理主義的政権が成立する危険も看過できないと思います。もしこのようなことが生じると、本格的な「文明の衝突」と「文明間世界戦争」へと事態が昂進する危険が現れます。

2.新しい平和運動のために――最悪シナリオを避けるために

現在、印刷に回す直前の平和論(ちくま新書)の草稿では、資料13のような最悪シナリオを書きました。これは、あくまでも「最悪シナリオ」なので、現実化する可能性は高いわけではありません。むしろ、これは危険性を提示して戦争に反対する反戦の論理なので、仮にイラク戦を強行してもここまで事態が悪化する可能性は低いでしょう。そこで、枚数の関係もあって、短縮ないし削除することを考えています。しかし、以上のような情勢を考えると、少なくともイラク戦やイスラエルの反撃までの危険は相当高く、悪夢のシナリオを荒唐無稽と片づけられないところが悩ましい点です。「最悪」ならずとも、「次悪シナリオ」ぐらいは実現してしまうかもしれません。

中間選挙における共和党の勝利は予想通りであり、2004年まで現在の戦争政策が続くことは覚悟せざるを得ません。そこで、私は2004年大統領選挙でブッシュ大統領が敗北することに希望を託しています。この場合は、戦争政策が中止されて、「最悪シナリオ」までは行かず、「次悪シナリオ」ぐらいで止まるかもしれないからです。それによってブッシュ王朝の世界帝国確立の野望が阻止され、イスラームとの対立も徐々に緩和に向かうことを念願します。

アメリカ国内で漸く大規模な反戦デモが行われたことが伝えられています(資料14)。民主党からも、カーター元大統領などのイラク戦への批判など、徐々に反戦の議論が提起され始めています。ここに未来の希望があります。アメリカの良い意味での共和主義的伝統が甦り、ベトナム反戦時のように政府を追い込んで、2004年に政権交代を実現させることを祈りたいと思います。

勿論、日本でもこのようなアメリカ国内の動きに海外から声援を送り、反戦運動を行って、このような批判を加速させるべきでしょう。私達も、イラク戦に際して、いかなる実践的発言を行うことができるのか、真剣に議論すべき時だろうと思います。ご意見などがあれば、お寄せください。

まずは、アフガニスタン戦の場合と同様に、HPなどで意見や見解の表明をすることが考えられます。

そして昨年の年末には、地球的平和問題会議を開催しました。現在はその刊行のために努力しています。そこで、イラク戦に際しても同様の会議を開催することが考えられます。

また、地球的平和問題会議の際にも、声明や署名などを行うという案もありました。結局、それは見送りましたが、これも検討の対象となるでしょう。また、他のグループで行っているこの種の活動を積極的に紹介したり、協力したりすることも考えられます。

私自身は、このような事態になっても、さほど平和運動が盛り上がらない事態を考えると、平和論や平和運動そのものに対しても問題提起する必要性を感じています。ちくま新書では、そのような議論を思想的に提起しています。

勿論、議論だけでは不十分で、実践的な展開が重要でしょう。とりあえず、鎌田氏らの平和運動「足の裏で憲法第9条を考える会」では、それを実践的に発展させようという動きが現れているので、私はそれに個人的に協力しています。前回の会の後に先方のMLに送ったメイルを資料15に付しておきます。「楽しい平和運動」を求める若者の希望が強いので、それに合わせて意見を述べたものです。これだけでは何のことかわからないでしょうが、ご参考までに。

●資料1:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=269510

ビンラディン氏は生存し世界中でテロを計画中=インターポールのトップが語る

2002 年 11月 9日

●資料2:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=268359

バリ島テロでアル・カーイダ犯行声明…CNN報道

2002 年 11月 8日

●資料3:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=268388

2004年の再選に狙い定めるブッシュ米大統領

2002 年 11月 8日

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●資料4:

イスラエルで早くも新外相と首相の対立高まる=両者とも党首選に照準

2002 年 11月 8日

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資料5:

●http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=269354

◎対イラク武力行使も辞さず=安保理決議の完全履行要求-米大統領

2002 年 11月 9日

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●資料6:http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=268202

アラファトもフセインも1年後には過去の人=イランで政変あり得る――イスラエル元対外情報機関長官

2002 年 11月 8日

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●資料7:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=265823

イランを標的にするのは最大の誤り=英外相がイスラエル首相を痛烈批判

2002 年 11月 6日

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●資料8:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=266567

◎イスラエル、戦争なら選挙延期も=米はイラク絡みで政局注視

2002 年 11月 6日

●資料9:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=265013

イスラエルのモファズ新国防相が正式就任

2002 年 11月 5日

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●資料10:http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=268431

◎弾道弾迎撃ミサイルを公開=イラクの攻撃けん制-イスラエル

2002 年 11月 8日

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●資料11:http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=267808

◎米とパトリオット発射演習=イスラエル

2002 年 11月 7日

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資料11:http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=266742

スカーフの上に「融和」の装い

2002 年 11月 7日

資料12:http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=264335

イスラム系野党が圧勝 政局不安定化も

2002 年 11月 5日

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資料13:

それ故、先述した自制心をアメリカが失って、イラク攻撃などのように、当初考えられたような大量報復作戦ないし大軍事作戦を行なった時には、――湾岸戦争の時と違って――イスラームの信仰心と同胞感情が煽り立てられる。アラブ側が長期的に文明の旗の下に結集してゆく、という危険な状態が生まれかねないのである。

敢えて最悪の展開を考えてみよう。ここに現れてくる危険があるのは、次のような悪夢のシナリオである。勿論、当初は、アメリカ始め西側が人的・物理的に大きな損害を与え、アメリカ国民は喝采を送るだろう。既にタリバーン政権の転覆には成功したし、アル・カーイダなどの過激派組織を壊滅させることもできるかもしれない。フセイン政権についても同様であろう。

しかし、アフガニスタン、パレスチナ、さらにイラクといった民衆の犠牲の大きさと攻撃の残酷さを見て、イスラームの同朋意識やアラブ民族主義と、アメリカら西側への敵愾心は、ますます高まるだろう。いずれ別の原理主義的組織がテロ攻撃を再び企図し、テロと報復という悪循環が繰り返される内に、文明間の衝突の図式はますます深刻になっていく。前述の2002年10月の連続テロは、その不気味な前兆のようにすら思われる。

これは、ある意味では、正に21世紀の「新しい戦争」である。アメリカが軍事力で何回打撃を加えても、相手は国家ではないから、完全な終戦とはならない。断続的にテロと報復が繰り返されるのであり、日常生活が常に戦場化する危険が生じてくる。テロを防止するために、アメリカ自身も戦争国家化・兵営国家化する危険が存在しよう。

戦争直後に既に、‘CIAを強化し、外国人暗殺への加担を容認する’という恐るべき方向が、パウエル国務長官から示唆され、その後、予算や秘密工作活動は大幅に拡大された。同時多発テロ後、僅か数日で「反テロ愛国法」が施行され、テロリストの疑いのある外国人を司法手続きなしに7日間拘束できることになった。そして、超保守派のアッシュクロフト司法長官の下で、容疑の不明確なムスリムやアラブ系住民を秘密に長期間予防拘禁したり、事情聴取を行ったりしている(矢部武『テロ後のアメリカいま「自由」が崩壊する!』KKベストセラーズ、2002年)。ここには、明らかに人権侵害が存在し、マッカーシズムの再現の危険が存在する。

ビン=ラーディンの「アル・カーイダ(基地)」の活動家は約55カ国にわたっている上に、テロ組織のネットワーク「ユダヤ人と十字軍に対する聖戦のための国際イスラーム戦線」は、15カ国以上の国・地域31グループと提携しているという。このように、イスラーム過激派は一国だけに存在するのではなく、アラブの多くの地域に存在するから、数年以上に及ぶこの戦いは、規模においては、もはや西洋文明とイスラーム文明との「小さな世界戦争」と呼んでよいのではなかろうか。

これは、確かに両次の世界大戦のように、数カ国の間で明確な宣戦布告を行なって国家全体で突入する世界大戦ではない。しかし、国家間ではなく、テロ組織との間で開始される「世界戦争」なのかもしれない。

両次の世界大戦のように、この世界戦争も、多数の戦線を持つ。まず初めがアフガニスタン戦線であり、次いでフィリピン戦線、イエメン戦線などの小さな戦線が既に開かれている。そして、今やイラク戦線が準備されているのである。当初は、アフガニスタンだけの戦争かと思われていたが、実はアメリカ当局の真意は、このような世界規模の戦争を遂行することにあったのであり、アフガニスタン戦争は第1戦線に過ぎなかったのである。

アメリカ自身が、テロ直後から、この報復作戦には数年ないし数十年かかると言っているのだから、この戦いは何年かかるかわからない。そして、何よりも恐ろしいのは、今まではテロには批判的だったイスラーム教徒の多くが、アメリカやイスラエルの暴力行為を眼前にして、「聖戦」の論理に共感してゆくようになってしまうことである。少数の過激派を根絶しようとして始めた戦いが、逆に原理主義者や過激派を増やしてしまうかもしれないのである。

12億人というイスラーム人口を考えると、この結果が最も恐ろしい。無辜の民を虐殺すればするほど、敵の兵士が増えていくかもしれない――これが、この新しい「世界戦争」に潜む危険な動力学なのである。

しかも、これがさらに国家をも巻き込んだ大戦争に発展しない、という保証もない。アメリカのイラク先制攻撃は、この危険を孕む。先述したように、湾岸戦争は、当初イラクのクウェート侵略から始まったものであり、イラクはそもそも必ずしもイスラーム的な国家ではなく、むしろ世俗的なバース党のフセイン強権支配の国だから、イラクは広くイスラーム世界の支援を受ける事にはならなかった。

しかし、途中から戦争目的の再定義を行い、クウェートからの撤退をソ連などに仄めかす一方で、イスラーム教的な論理を用いてイスラエルとの「聖戦」を謳い、イスラエルに向けてスカッド・ミサイルを発射した。幸い、当時のイスラエル政権は自制的な対応を行い、他のアラブ諸国もイラクの意図を信用しなかったので、このイラクの挑発が本格的な文明間の衝突に発展する事は避けられたのである。

しかし、もしアメリカがアフガニスタン攻撃に止まらずイラクまで攻撃するようなら、今度はイラクが侵略したのではなく、アメリカが先制攻撃を行うのだから、イラクの「聖戦」という論理は信憑性を帯びてくる。そして、イラクは再び同じように――今度は初めからイスラエルに向けて――ミサイルを発射し「聖戦」を呼号しかねない。

イスラエルの現政権は、ただでさえ好戦的でパレスチナとの紛争を激化させているシャロン政権である。その時、イスラエルは抑制的な対応を為しえようか? いや、おそらく猛反撃を企てるであろう。既に、その場合には反撃することをイスラエル政府は決定し公表しており、アメリカまでが自制を求めずに事実上追認しているのである(2002年10月16日)。

しかし、今回の火種は、領土目的のクウェート侵略ではない。イスラーム過激派による「聖戦」である。とすると、その時、イスラームの人心はいかなる方向に動くだろうか? 穏健派政府といえども、アメリカやイスラエルの支持は躊躇うであろう。

ブッシュ親子とフセイン大統領との因縁を思うと、いわば「第2次湾岸戦争」が起こることになろう。これは、フセイン打倒のためのブッシュ家の「私戦」とすら言えよう。これに対して、今度はイラクが戦争目的を「聖戦=防衛的ジハード」とする事に成功してしまう可能性も、否定できない。

もし、上記のような論理で、イスラーム原理主義者が増えてしまうと、今後、アラブ穏健派諸国が転覆し、イスラーム原理主義政権ないし「原理主義国家」の樹立に繋がってしまうようなことが起こりかねない。パキスタンの総選挙で原理主義政党の連合体「統一協議会連盟」が伸長した(2002年10月12日)のは、このような傾向を表し不気味である。

実際、原理主義者が批判するように、いわゆる穏健派諸国の政治は腐敗しており、貧富の差や専制などを見れば、民主主義的観点からも政体の変革が望ましい場合が少なくない。しかし、その結果が原理主義政権にならない保証はない。むしろ、かつてのアルジェリアで危険が存在したように、民主主義的過程によって原理主義政権が成立する危険すら存在するのである。

さらに、もし原理主義的政権が多数成立すると、それらが連携ないし合体して西洋文明に挑戦する危険すら、完全に起こりえないとも断言できないだろう。スンナ派のイスラーム政治思想においては、イスラーム共同体(ウンマ)全体が選んだ一人の元首(カリフ)の下で、全ウンマが結束し、シャリーアを法源とする単一の「カリフ」国家を再興することが、理念型的な理想とされるからである(中田考『イスラームのロジック』講談社、2001年、244頁)。

ビン=ラーディンの右腕アイマン・アル=ザワーヒリーが属するエジプトのジハード団などは、西洋実定法を施行するイスラーム政権に対して、その政権打倒を企てる「革命のジハード」論を採用しているという。このような「対内ジハード」の論理は、カリフ国家再興を目指す論理(漸進主義―ムスリム同胞団、カリフ革命論―イスラーム解放党)と容易に結びつくであろう(中田考『ビンラディンの論理』小学館文庫、2002年)。

もし、このようなイスラーム原理主義が勝利することがあれば、その暁に成立する政治体は、通常の「国家」ですらなく、西洋的な「国家」観念を超えて、イスラームの理念に基づいた文明的国家ないし超国家となるかもしれないのである。

勿論、このようなことは簡単には起こりえない。しかし、このような大混乱ないし大変動の可能性も全く存在しないとは断言できず、イスラーム原理主義者達の目標はむしろこのような事態を引き起こすことにある。そのような混乱の結果として、10年・20年先には昨日の勝者と敗者が入れ替わってしまう可能性もまた、完全には否定し切れない。特に、アメリカが大不況や恐慌に突入して軍事的に退却するようなことがあれば、このような危険は現実味を帯びるであろう。

既に、アフガニスタン戦争は、パレスチナ問題に飛び火してしまった。死者は既に 人を超し、既に「パレスチナ戦争」と呼ぶべき水準に達している。これがさらにイラク戦へと拡大するような事になれば、これは正真正銘の「文明の衝突」、さらには「第3次世界戦争」へと拡大しかねない。これぞ正しく、ハンチントンが警告した通りの悪夢のシナリオであり、聖書のハルマゲドンすら思わせる黙示録的戦争になりかねないであろう。

果たして、アメリカは、このような危険を直視しているだろうか? 摩天楼倒壊事件が、第2次世界大戦におけるサラエボ事件にならない保証は、どこにあるのだろうか?

この最悪シナリオは、あろう事か、劇画やSFないし巷間の「破滅予言」に似てしまっている。しかし、それも止むを得ない。そもそも飛行機による摩天楼倒壊という事件自体が、それ以前には、SFやアクション映画としか思えないようなものだし、ビン=ラーディンが持つと伝えられた地下47メートルの隠れ家も、007シリーズに登場するような悪人の秘密基地に似ている。硬派の雑誌すら、同時多発テロ事件直後には「世界戦争」とか「世界恐慌」などというタイトルの特集や記事を載せる状態だったのである(例えば、『AERA』緊急増刊、no.42,9月30日号、「新『世界戦争』が始まった」。)

「1999年7の月」には大した事件は起こらなかったので、世間を騒がせた『ノストラダムスの大予言』などの著者(五島勉ら)は、面目を失墜する事になった。そのせいで、終末論を信じる人は日本では少なくなったであろう。これは、健全な傾向である。

しかし、楽観してもいられない。「2001年9の月」には、逆にその「予言」が幾分か真実味を帯びてきてしまった(※)。私達は、このような黙示録的世界を避ける道、超える道を全力で模索しなければならないのである。

※     現に、五島努は、早速、英国人女性の一解釈者が、1972年刊行の本で、同時多発テロ事件を予見していたと主張した。それによると、彼女は、有名な「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」(第10巻72番)を唯一人「テロの大王(The Great  King of Terror)が空から降ってくる」 と訳していた。さらに、1巻87番の詩を「ニューヨーク中枢の複数の摩天楼の複数のタワー」である「センター」が「(上から)攻撃」され、「爆発」する、と解釈していた、という。

この説の真偽について、筆者は知る由もないし、それを調べる気にもなれない。しかし、この解釈によると、世に喧伝されてきた「1999年7の月」の世界の終末は、実は2年後の同時多発テロのことだった、ということになるのである!(五島努『イスラムvs.アメリカーー『終わりなき戦い』の秘予言』青春出版社、2002年)。

資料14:

http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=255495

ワシントンとサンフランシスコで大規模反対デモ

2002 年 10月 27日

資料15:

皆様

小林です。私も、■■さんと似たような感想を持っています。私としては、具体的実践に向けて問題提起を事前にしていたので、そこから振り返ってみます。

●やはり、この会にとって「楽しみ」という要素が非常に大事であることが確認されました。ただ、会合自体が楽しみというだけではなく、「平和運動自体も楽しくしたい」という方向性が表れたような気がします  。

●従来通りの形で継続するのか、それとも実践的に発展させるのか、という点については、特に若い方々からは意見表明はあまりなかったように思います。■さんが述べられたように、時間切れで議論できなかった、と  いうところでしょう。

●■さんが挙げられた以下の二つの方法の内、今のところ、前者の方法を支持 する人が多いような気がしました。オペラや踊りなども、こちらに近いだろうと思います。

当日述べたとおり、平和の探求は、生き方の模索と重なる部分が多いので、これは重要な方法だろうと思います。私個人としても、時間に余裕があれば、この側面についても話したいことは少なくありません。

●しかし、同時に事態の緊急性を考えてみると、私は後者の方法も重要だろうと思います。前者だけだと、特に平和運動という形を取る必要性は少なくなり、この会が平和運動である所以は、やはり後者のような現実的方向性も、合わせ持つことにあるだろうと思います。

● そこで、私としては、この双方の方向性を両立させる形の運動を模索したらどうかと思います。例えば、皆の話を聞くとか踊る・歌うというような要素と、声明や署名などの実践的アピールなどの要素を共に行うことは可能でしょう。大きなイベントを行う際にも、この双方を組み込めば良いだろうと思います。これは、当日■先生が言われたような、いわば理念と感性の統合という事にもなるだろうと思います。

●当然、人によって重点の置き方は違って良いと思います。私自身は後者の方に自分のエネルギーを注ぎたいと思いますが、前者の要素を後者の内容に反映させることは可能だろうと思います。

●会議の最後に少し話したように、皆さんの話から次のような要素は、理論的にも述べることができるでしょうし、また運動の中に反映させることができるだろうと思います。右側が、概念です。

・文化の相互承認、そのための対話ーー多文化主義、コミュニタリアニズムの相当

・共通項。共同性ーー同上。

・スポーツ、音楽などの方法ーー技術、芸術ーアート技芸術

・平和の波ーー理念波

・平和の道ーー平和道

・物質主義に対して、アジア的なものを取り戻すーー和から平和へ

・イデオロギーを超える感情を核にーー和楽

・楽しい平和ーー和楽

・平和の希望、平和の喜びーー積極的平和

●これらを踏まえて、この運動で私が重視したいと思うようになったのは、以下のような観念です。

アート・オブ・ピース(平和術、平和芸術)

楽しい平和運動(平和道、平和波)、楽しい平和術

平和の人々、和楽の人々

和楽ないし楽和の運動 、和楽運動、和楽術

政治や実践的運動の暗いイメージを変え、「政治術ないし政治芸術」、「運動術ないし運動芸術」を創造する。例えば、デモなども、このような芸術の場にする。

●私が緊急論説で書き、現在ちくま新書からの刊行に向けて改訂中の文章では

「和戦」という概念を提起しました。

「和の、和による、和のための戦い」です。

http://homepage2.nifty.com/public-philosophy/Ny3.htm

「和楽」と「和戦」とは、良いペアになると思います。そこで、少し「和楽」の方も付けておこうかと思います。会議中に述べた「アイデア」というのは、以上のようなものです。

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