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時評「核戦争の危機に面してーーイラク戦に対する反核平和」 小林正弥(千葉大学)

水曜日, 4月 3rd, 2002

1.核使用策定計画の衝撃ーー戦争で核兵器が行使される世界 2.反「テロ」世界戦争への拡大ーーイラク戦線開始 3.イラク攻撃の外交的準備ーー不名誉な日米枢軸 4.イラク攻撃のための停戦ーー便宜的なパレスチナ和平圧力 5.核行使の誘惑ーー不審なアナコンダ作戦の「教訓」 6.アメリカ帝国の夷狄討伐世界戦争ーー死線の完全突破 7.世界戦争への拡大と長期化ーー次期大統領選への戦争選挙戦術 8.イラク戦の最悪シナリオーー核戦争と中東戦争 9.被爆国家・日本の世界史的使命ーー絶対的反核の貫徹 10.戦後日本公共哲学の絶対的当為ーーー絶対的公共悪に対する和戦 . .続報(3月29日追加) ■1.核使用策定計画の衝撃ーー戦争で核兵器が行使される世界 既にご存じだと思いますが、9日付ロサンゼルス・タイムズは、アメリカが7カ国に対して非常時の核使用計画策定と、より小型の核兵器開発を指示していたこ とを報じ、さらに10日付ニューヨーク・タイムズは生物化学兵器貯施設を標的にした核攻撃シナリオの策定指示を報じました。核兵器使用の対象に挙げられて いるのは、ロシアをはじめ中国、北朝鮮、イラク、イラン、リビア、シリアで、「悪の枢軸」3国だけでなく、中国やロシアまでも対象に入っています。文書で は、核の使用が想定されるケースとして、(1)通常兵器では撃破できない敵(2)核や生物・化学兵器による攻撃への報復(3)予想を超える軍事上の展開、 の三種類が明記されていると報じられています。 日本の新聞が本格的に報じたのは10日で、私は会議のため山口でこの記事に接して、非常 に大きな衝撃を受けました。中国新聞では10日の一面トップで大きく扱っており、全国紙よりも本格的に報道していました(資料3)。おそらく、これは中国 新聞が広島県もカバーしているためだと思われ、参考資料に見ることができるように、中国新聞の報道はこの件に関しては全国紙よりも充実しています。 アメリカ当局者は核使用計画策定の方は政治的考慮から否定していますが、民間研究所グローバル・セキュリティーが核兵器開発指示の文書の抜粋をHPで公表 しましたし(資料13)、ラムズフェルド国防長官は情報漏洩を怒り(資料10)、ボルトン国務次官(安全保障担当)が事実上認める発言をしておりブッシュ 政権の核攻撃の可能性を認めている(資料11、18)ので、報道が真実であることは確実です。参考までに、資料14にそのHPに掲載されている機密文書 Nuclear Posture Review[Excerpts]を付します。 既に2月22日の段階でボルトン国務次官)が「核不拡散条約に加盟している非核保有国 には核攻撃をしない」というカーター政権以来の方針を変更する姿勢を見せていました(資料1)から、これが政権レベルで決定されたと見て良いでしょう。こ れは、核不拡散防止条約体制をますます揺るがせるものです。そして、大統領自身が、イラク・北朝鮮などに対して、大量破壊兵器開発に対して先制核攻撃も辞 さないという言明をしました(資料9)。また、前述の秘密文書では、 「一、米国が備えなければならない「直近」「潜在的」「予測不能事態」の三形態の対応計画を想定。核攻撃能力の設定に際しそれらに応じられる戦力を用意。 一、「直近の対応計画」は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による対韓国、イラクの対イスラエル攻撃や台湾をめぐる武力衝突など。 … 一、北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアは三形態のいずれかに属するが、北朝鮮とイラクは特に恒常的な軍事的懸念となっている。いずれもテロを支援、保護し大量破壊兵器とミサイル開発が活発。」(資料12) とされており、特に北朝鮮の韓国攻撃、イラクのイスラエル攻撃、中国の台湾攻撃は、核使用を備えるべき「直近」の事例として具体的に挙げられています。 冷戦時代には、核兵器は抑止力とされており、万一使用されたら人類滅亡の危険を孕むものの、使用することのできない兵器と見做されていました。然るに、この核使用策定計画においては、むしろ具体的な危機において使用することが想定されています。 しかも、テロ支援や大量兵器開発が上記文書では挙げられていますから、政権は、現在の反「テロ」世界戦争において核兵器を使用する可能性を本気で考慮していると考えなければなりません。広島・長崎を始め、世界各地で批判が始まったのも当然です。 核の時計の針が動かされたのも当然です。広島・長崎以来の核兵器使用の危険が、高まっていると言わざるを得ません。これを知って、衝撃を受けないでいられ ましょうか? 核不拡散体制が危機に瀕するのみならず、アメリカは戦争で本当に核兵器が行使される世界へと舵を切ろうとしているのです。これは、黙示録的 世界に他ならないでしょう。 ■2.反「テロ」世界戦争への拡大ーーイラク戦線開始 パキスタンでは、ウォール・ストリー ト・ジャーナルのダニエル・パール記者の誘拐・殺害事件(1月)に続き、昨日もイスラマバードのキリスト教会で手投げ弾テロがあり、アメリカ外交官家族を はじめ5人死亡、40人が負傷しました(17日)。今後も、様々なテロが続発することが懸念されます。 これに対して、アメリカは既に反 「テロ」世界戦争を、第2戦線以下へと展開させています。アフガニスタン戦争も継続していますが(アナコンダ作戦)、フィリピンを皮切りに、グルジア、イ エメンにも米軍が派遣されつつあり、さらにはコロンビアやスーダン・ソマリアなどへも派遣が検討されているようです。いよいよ戦線は世界中に広がり、ーー 世界大戦でこそないもののーー「世界戦争」の実質を備えてきたと言って良いでしょう(資料16)。 この焦点が対イラク戦争であること は、言う迄もありません。アメリカは、イラク攻撃には既に法的根拠がある(個別的・集団的自衛権を定めた国連憲章51条、停戦決議(安保理決議687)違 反)と主張しており(資料17)、フセイン政権打倒の意思を固めていることは確実です。 実は、同時多発テロとイラクの関係はさほど強く ないわけですが、アメリカ内部では、ーー同時多発テロとは別にーーフセイン政権が核武装する危険性が高いことを論拠として、それ以前に打倒すべきであると 論じられています。この点については、タカ派とハト派の間に大きな差はなく、その論争は主として時期(タカ派ー即刻、ハト派ー時期尚早)と方法に関しての ものとなっているようです(1)。前回述べたように、反「テロ」の論理から反「大量破壊兵器」の論理へと転換しているのは、主としてこのためでしょう。イ [...]

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「悪の枢軸」を語る「戦争屋」――アメリカ世界帝国主義論と「米帝」中東・朝鮮戦争の脅威 小林正弥(千葉大学)

土曜日, 2月 16th, 2002

「悪の枢軸」を語る「戦争屋」ーーアメリカ世界帝国主義論と「米帝」中東・朝鮮戦争の脅威  ■1.「悪の枢軸」発言ーー対イラク先制攻撃言明 田 中外相更迭(29日)に隠れてしまったため、同じ日に行われたブッシュ大統領の一般教書演説(資料1)はさほど日本のマスコミに報道されなかった。しか し、これは、外相更迭事件と同様に信じがたいものであり、日米双方の政権の低劣さと危険性をこの二つの事件以上に明確に語るものはない。  この演説の問題点は、次の3つであろう。 1.イラクに加えて、北朝鮮とイランとを「悪の枢軸(Axis of Evil)」と呼んだこと。 2.対テロの論理を用いながら、「大量破壊兵器」所持国への戦争を示唆し、実質的には、戦争の論理を変更・拡大したこと。 3.自衛戦争という名目を捨て、事実上の先制攻撃の可能性を示唆したこと。   これは、ブッシュ大統領個人の思い付きではなく、その後にライス・ラムズフェルトら政権首脳がそれを敷衍する発言を行い、大統領は「対アフガニスタン戦が 成功したからといって、本気ではないと思っている人達が世界にはいるが、我々に躊躇いはない」として、「各国も我々の側につく必要がある」と同調を要請し た(資料3)。さらに、穏健派のパウエル国務長官までが、大統領の強い指示に従って強硬姿勢に転じ、下院外交委員会で、フセイン政権打倒を「米国だけで行 わなければならない」「考えうる最も深刻な行動もありうる」と述べた(8日、資料11)。   従って、イラク等の攻撃は既に政権全体の意思と見做さなければならず、副大統領の中東歴訪はイラク単独攻撃への布石と見られている(資料9)。アフガニス タン攻撃の際に、政権内部で強硬派は当初から大量報復攻撃としてイラクも同時に攻撃することを主張し、パウエルら慎重派の抵抗で、その実施を先延ばしにす ることとした。いよいよその時期が到来し、正に大量報復攻撃を開始しようとしているわけである。今回は、ロシア・中国などが批判しているのみならず、フラ ンス(ベドリヌ外相、ジョスパン首相)やイギリスのような欧州の友好国までもが批判的なので、アメリカ一国で攻撃に出るという信じがたい凶暴な姿勢を見せ ており、この姿勢は現在でも変わらない(資料17)。 ■2.「文明の対話」を破壊する戦争国家ーー邪悪なのはどちら?   思想的に見て驚倒したのは、イラク・北朝鮮だけではなく、イランまでも「悪の枢軸」に入れたことである。同時多発テロ事件やアフガニスタン戦線について、 イランは比較的アメリカに好意的な姿勢を取っており、突然攻撃対象になる現実的理由は見当たらない。パレスチナへの武器輸出事件への関与を疑っているけれ ども、それだけで攻撃対象になるとは思えない(1)。タリバーン政権の場合は、その原理主義的な時代錯誤の硬直的思想の故に、思想的には擁護できなかった が、イランの穏健派・ハタミ政権の場合は、全く事情が異なる。  ハタミ大統領の著書『文明の対話』(共同通信社、2001年) は、思想的にも相当評価できる良質の著作であり、むしろこのような角度からこそ、「文明の衝突」の危機を避け、文明間の平和共存が可能になると思わせるも のであった。ある意味では、イスラーム圏の現状の中で、ハタミ大統領は、いわば「哲人大統領」のような存在であり、「文明の衝突」を回避するための希望の 星であった。イラン内部では、なお強硬な保守主義的勢力も強いとはいえ、ホメイニ師がイラン革命を起こした国で、このような優れた思想を大統領が述べるこ との意味は決して小さくはない。さらに、現実の外交にも、同時多発テロ事件後にその改革派路線は明確に反映していたのである。  イランは「文明の対話」を提唱していた。それを「悪」と呼ぶ国家は、すなわち「文明の対話」を破壊する戦争国家である。どちらが、「邪悪な国家」だろうか? ■3.「文明の衝突」をもたらす「悪の帝国の戦争屋」   テロとの直接的関係もないのに、イラクを攻撃し、さらに反テロ戦争に比較的協力的だったイランまでも「悪」と規定して、果たしてイスラーム諸国ないしムス リムはアメリカを支持し続けることができるであろうか? これでは、「テロ組織」どころか、原理主義ですらなくとも、アメリカの攻撃の対象になり得ること になる。穏健派のイスラーム国家ですら、アメリカの随従し続けない限り、先制攻撃を受ける危険が存在することになってしまう。過激派ならずとも、正統的な ムスリムから見てさえ、これはアメリカの暴虐な支配であり、「防衛的ジハード」の対象にならないであろうか?   「文明の対話」を提案して国連のプロジェクトにまでした国家を攻撃するようでは、「文明の衝突」を自ら引き起こそうとするかのうようである。敵対していた イランとイラクとを共に「悪の枢軸」と規定することは、逆にこの二国の間の提携、ないしイランと他のラーム諸国との提携をもたらすかもしれない。シーア派 のイランとスンニ派のイスラーム諸国が提携することの意味は決して小さくはない。イスラーム内部の思想的対立が乗り越えられて、イスラームとしての連帯感 が現在以上に生まれてくるかもしれないからである。   これまでは、イランーイラク(まして北朝鮮)の外交的提携ないし「枢軸」などは、存在しなかった。しかし、この愚かなアメリカの規定により、そのような 「枢軸」が生まれてきたら、どうするのだろうか? イスラーム陣営の結集という可能性が生まれてくる。これは、ハンチントンの「文明の衝突」のシナリオ通 りなのである。アフガニスタン戦線は、幸い「文明の衝突」にまでは至らなかった。しかし、アメリカは、本当の「文明の衝突」を引き起こしたいのだろうか?   北朝鮮が「悪の枢軸」に対抗してアメリカを「悪の帝国」と呼んで非難した(資料8)のは、今までの行動パターンから見てむしろ当然の成り行きであろう。し かし、極めて理性的で教養の深いハタミ大統領が「戦争屋的な態度」と呼んだ(資料5)ことは、無視しえない。革命記念日(11日) には、イランは反米一色になり、大統領も「米国の政策はシオニストに影響されている」と述べ、「イラン国民を根拠なく侮辱することは許さない」、(「米国 に死を」と叫ぶ群衆を前に)「米国の指導者達は、自分が世界の支配者だと思っている。大人気ない彼らに目覚めてほしい」と演説したという(朝日、12日、16日、資料18も参照)。   [...]

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時論「戦争と平和――アフガニスタン、中東、そして日本」 小林正弥(千葉大学)

金曜日, 12月 7th, 2001

時論「戦争と平和――アフガニスタン、中東、そして日本」 1.対テロ戦争の世界的拡大という戦慄の恐怖――アフガニスタン戦争から中東戦争へ 戦況は大きく変化し、マザ―リ・シャリ―フ(11月11日)・カブール陥落(13日)・クンドゥス投降(25日)などにより、北部同盟が北部を占拠し、 ベール(ブルカ)を脱いで喜ぶ女性達の映像が流れています。ボンでは、現在、政権構成の協議が4派で行なわれており、皇太子妃の出産で湧く日本では、あた かも戦争は――南部で抵抗するタリバーンの残党を除けば――終わったかのようです。アメリカでは、「最も偉大な国の力」を自賛する声が、あちこちで聞かれ ます。 しかし、私の心は晴れません。アフガン国内は、北部といえども無政府状態で、マザリ・シャリーフ近郊でのタリバーン投降兵の反乱 と全員射殺という(アムネスティー・インターナショナルなどが調査を要求した)残酷な事件や、メディア関係者の死などが報じられています。そして、何より も、南部では、まだカンダハル周辺で抵抗を続けるタリバーン軍に対し、アメリカの爆撃が最大規模で激しく続いています。 報道量が減ってい るだけで、一般市民の死も勿論続いています。クエッタの病院には、連日民間人の犠牲者が運び込まれているようです(11月27日、朝日)。また、東部の ジャララバード近辺では、ビンラディン氏らが潜伏していると見て、連日集中的に爆撃を続けており、この文章の執筆中にも、2つの村で住民50人が死亡した と伝えられました(12月1日)。 アメリカは、遂に本格的な地上作戦を開始してしまいました。「迅速な自由作戦」と命名したそうです。カ ンダハル近郊の空港を制圧して前線基地を作り、特殊部隊約400人だけではなく、海兵隊約1000人まで投入して、計1500人で、カンダハルを死守しよ うとするタリバーンとの地上戦に突入しようという構えを見せています。 それどころか、ブッシュ大統領は、26日に、宿敵・イラクと、テロ組織の存在する諸国へと対テロ戦争の拡大を示唆しました。湾岸戦争が繰り返される危機、いわば第2次湾岸戦争が起こる危険が現実化してきました。 さ らに、イスラエルで、エルサレム繁華街(1日)・北部のハイファの路線バス(2日)で連続自爆テロが起こり、計27人死亡、200人以上が負傷という恐る べき衝撃的なニュースが飛び込んできました。昨年来の衝突の中で最大級の事件で、アメリカが特使を派遣して進めていた停戦仲介はこのため崩壊寸前となり、 パレスチナ自治区では全域に非常事態宣言が出されました。イスラエルは、既に同等以上の報復を宣言しています。 ブッシュ大統領は「正当化 できない殺人行為」と非難し、訪米中のシャロン首相と予定を繰り上げて会談し、シャロン首相はすぐ帰国しました。今回は、アメリカは自制を公式にはイスラ エルに求めず、ただ7日間の猶予期間を自治政府に与えるように求めました。この間に自治政府が、犯人の逮捕や支援組織の壊滅をしなければ、あたかも報復を 容認するかの如き態度です。 ブッシュ大統領が「正義をもたらす」というアフガニスタンについては聞きなれた句を使ったのが、非常に気にな ります。前観光省暗殺時にイスラエル首相が主張したような、対テロ戦争の論理を、ブッシュ大統領が用いているように見えるからです。その時には、アメリカ は――自分自身はアフガニスタンに対して用いた――対テロ戦争の論理に反対して、イスラエルに自制を求めました。そして「パレスチナ国家」案への支持を表 明して、和平の仲介を試みていました。これは、戦争開始後の、最も賛成出来るアメリカの外交的変化でした。然るに、自治政府がテロに責任があるとしてしま えば、自治政府は和平の当事者からテロ擁護政府という事になってしまい、議長や自治政府は、オマル師やタリバーンと同列の存在と見做す事になりかねませ ん。 こうなれば、むしろ自治政府自体が攻撃の対象となってしまいます。現に、イスラエル内部では、最早アラファト議長には期待できないと して、議長や自治政府をも攻撃の対象とするべきである、という議論がなされています。既にハマスら強硬派は攻撃の対象としており、今回の自爆テロは、ハマ ス幹部ら3人の暗殺(11月23日)の報復です。この攻撃をを自治政府にまで拡大してしまえば、後に残るのは、アフガニスタン同様の戦争しかないでしょ う。北部アフガニスタンで戦火が収まった途端に、パレスチナで戦争が始るわけです。これこそ、私の恐れていた事態に他なりません。 時評 で、「米、地上作戦開始」と「イスラエル軍のベツレヘム侵攻」という記事が並んだ日(10月20日)の衝撃を述べましたが、ここ数日に、この双方が共に拡 大された形で再現されているわけです。10月の段階では、地上作戦といっても特殊部隊に限定されていましたが、今回は海兵隊です。ベツレヘムなどパレスチ ナ自治区に侵攻した戦車は、その後アメリカの圧力で撤退しましたが、今度もこのようになる保証はありません。最悪の場合は、和平が破綻し、戦争がパレスチ ナで始まる危険も無視できません。 つまり、現在は、始まってしまった「アフガニスタン戦争」が、――ブッシュ大統領の意思により――イラ クとの「第2次湾岸戦争」に、あるいは「世界対テロ戦争」に、そして――アメリカの意向さえ超えて――「パレスチナ戦争」へと拡大する危険を迎えている訳 です。第2次湾岸戦争とパレスチナ戦争が同時に始まってしまえば、これは「中東戦争」全体になりまねません。「第 次中東戦争」ということになるでしょう か。こうなってしまえば、「文明の衝突」ないし「文明間戦争」へと発展してしまう危険が現実化してきます。これは、戦慄の恐怖としか言いようがないでしょ う。この状態で、どうしてお祝い気分になれましょうか。 もし、このようになってしまえば、いわばアメリカの言う「対テロ戦争」は、アフガ ニスタンで終わるのはなく、むしろアフガニスタンは第1戦線であり、これに、イラクやパレスチナという第2・3戦線が続いていく事になります。これは、 「世界戦争」に他ならないでしょう。以下では、これらの危険を順に見ていく事にしましょう。 2.アフガン戦線:戦局転換における既視感――タリバーン「敗走」と湾岸戦争の「勝利」 振り返って見れば、現在のように、アメリカ軍が圧勝し、戦っていた反米側がたわいもなく敗れ去ったように見えたことが、かつてもありました。そう、湾岸戦 争におけるイラクの「敗北」です。その時、父ブッシュ大統領は、勝ち誇って勝利宣言をし、「新世界秩序」の到来を力説したのでした。あの時、皆様は、それ を信じ、そこに希望を託したでしょうか。 私は、信じませんでした。当初は、「独裁者」のフセイン政権も、アメリカの力により終止符が打 たれるように見えましたが、結局は生き残り、先に政権を去ったのは、ブッシュ大統領の方でした。そして、(湾岸戦争後にアメリカ軍が「聖地」・サウジアラ ビアに駐留を継続している事に憤った)イスラーム過激派が、9月11日に同時多発テロを起こし、全世界は、湾岸戦争の深刻な帰結に漸く気付いたのでした。 [...]

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「追悼 終戦への祈り――アフガニスタン・テロの犠牲者に捧ぐ」 小林正弥(千葉大学)

月曜日, 10月 8th, 2001

追悼 終戦への祈り――アフガニスタン・テロの犠牲者に捧ぐ 1.開戦の衝撃――文明の名の下の蛮行 遂に始まってしまった。10月7日――これが「開戦」の日である。   9月末より、アメリカの対応に若干の自制心が働き、一度は攻撃を直前に中止して、国務長官らが中東・中央アジアを歴訪して限定攻撃を示唆していたので、いきなり大量報復という最悪の事態は避けられると少し安堵していた[i]。再構成したHPのトップ・ページの背景色も、これに合わせて、赤から藍色に変更した。今回の攻撃は、その意味では予想通りだが、やはり「開戦」という事態の意味は深刻である。   アメリカ国防総省提供の映像で、出発する巡航ミサイルがテレビに映されている。しかし、その到着先では、何が起こっているだろうか? 画面には何も映されず、日本も含め各国首脳の戦争支持のコメントが次々流される。我々にはまだ、空爆の被害の大きさを知る由もない。   まず間違いなく、何人ものアフガニスタンの無辜の民が既に亡くなっているだろう[ii]。そして、2-3日間は続くという空爆の間に、今からもさらに死んでいくだろう。如何にテロ組織と軍事的施設に限定した攻撃と言っても、民間人が誰も死なないという事は、まず考えられない[iii]。 湾岸戦争時には、国防総省の発表ですら、トマホークの的中率は約1割にしか過ぎなかったという。逆に言えば、それ以外の9割は、幸い誰にも当たらなかった か、罪なき民を殺したか、どちらかである。昨夜の攻撃では、ビンラディン氏やオマル師は、無事だったと伝えられている。つまり、第1撃では、「犯人」や 「敵国」指導者は死なず、民が亡くなった訳である。これは、「文明を守る」という名分の下の、殺人であり、「文明」の名の下の「蛮行」である。   これは、ロシア ン・ルーレットのような世界である。アフガニスタンの人々の立場になって考えてみよう。この3日間ぐらいに、間違いなく、誰かが突然飛来するミサイルや、 爆撃によって死ぬ。それは、私か、あなたか、それとも同胞の誰かである。ここには、殺人の恐怖がある。これは、米英による国家的なロシアン・ルーレットで あり、――論説第2部で書いたように――国家的テロではなかろうか? これは、アフガニスタンに於ける米英の「国際的国家テロ」なのである。    アメリカ・テロ事件の犠牲者の時と同様に、アフガニスタン・テロ事件の犠牲者を追悼の意を捧げたい。既に、死者は出てしまった。せめて、アフガニスタン・テロ事件の犠牲者数が、アメリカ・テロ事件の犠牲者数を上回らない事を祈りたい。 2.失われた、生命と解決の可能性――「白鳥の歌」の危険性 私は、一切の「戦争」が起こらない事を願いつつ、NYテ ロ事件発生以来、全力で「論説」を書き続けてきた。報復の悪循環を繰り返す事なかれ――この倫理的観点からすれば、既に、この第1撃だけで、恐れていた事 態は起こってしまった事になる。アメリカは、既に殺人を犯し、これはイスラムの側に憎悪を引き起こしているからである。失われた生命は、最早戻らない。そ して、パキスタンのデモの激しさを見よ。ビデオに現れたビンラディン氏の訴えを聞け。これらは、将来に禍根を残すに違いない。     ビンラディン氏 は、「米国民が味わっている恐怖は、これまで我々が味わってきたものと同じだ。我々ムスリムは80年以上、人間性と尊厳を踏みにじられ、血を流してき た。」と言い、――「広島・長崎では何十万の人もの老人や若者が殺されたが、米国は犯罪だとは認めなかった」と日本への原爆投下にも触れて(!)――(イ ラク・パレスチナ・アフガニスタンなどへの「破壊行為」を糾弾しない)西洋の二重基準(ダブル・スタンダード)を非難した。そして、「米国民よ、私は神に 誓う。パレスチナに平和が訪れない限り、異教徒の軍隊がムハンマドの地から出て行かない限り、米国に平和は訪れない」と結んだ。この言葉を、テロリストの 正当化とのみ聞いて嘲笑すべきではあるまい。おそらくは死を目前にした「イスラム聖戦士」の「白鳥の歌」ないし「最後の言葉」として、イスラム教徒の中で 反響し、死後にますます英雄化される危険に目を向けなければならない。   私から見てすら も、アメリカが――湾岸戦争以来――サウジアラビアに駐留を続けている必然性は、余り存在しないように思われる。パレスチナ問題の解決はすぐには困難であ るにしても、例えばサウジアラビアの駐留軍の撤退は、極めて容易な決定である。湾岸戦争の後に、アメリカ軍がサウジアラビアに駐留を続ける必然性など、そ もそもなかったのではなかろうか? その傲慢な決定が、ラディン氏らを怒らせ、今回の「テロ」事件を発生させたのだから、アメリカ政府当局者は、自国の民 の犠牲について、過去の政策を反省しなければならないはずである。パレスチナ問題ないし中東問題全体が、この反省の対象になるべき事は言う迄もない。   アメリカは、反撃 によって、血で血を洗う争いに踏み込む事無く、むしろ自らの政策を見直す事によって、問題の根源を解決すべきであった。そうしてイスラム民衆の納得を得る 事によって、「テロリスト」への民衆の同情を殺ぎ、民衆を離反させる事こそ、テロ問題を抜本的に解決する道である。かつて――今のラディン氏のように―― 悪党視されていたアラファト議長を、今や自治政府の長として遇している事を思え。これこそ、問題の解決に至る唯一の方法である。サウジアラビアからの撤兵 を即時に決定し、中東政策の根本的変更=譲歩を約束する事が、何よりも必要である。過激派はともかくとして、原理主義的勢力一般が軟化し、イスラム民衆の 抑圧感が減少する事によってこそ、テロを根絶する事が可能になるのである。   この根本的問題か ら目を背けて論じるテロ対策は、一切が彌縫策である。まして、「戦争」は、局面の悪化を招くだけであり、倫理的にも政治的にも、もっとも愚かな選択肢であ る。過去の政策の誤りを直視する勇気を持たずに暴力に訴える事によって、アメリカは、無辜の民を殺しただけでなく、抜本的な問題解決の可能性を失ってし まった。そして、今後のイスラム・テロとアメリカ・テロの報復で、さらに多くの人命が失われるであろう。失ったものは、実に大きい。しかし、だからと言っ て、絶望感に捉われるわけにはいかない。まだ残されている可能性を検討し、さらに危険な方途を回避すべく努めなければならない。 3.アメリカの選択――その不当性と最後の一線 アメリカが自らの誤謬を反省する態度を示さない以上、NYの「テロ」に対する直接の対応ないし展開には、次のような可能性が考えられた。 ①国際法に則った犯人の拘束・裁判・処罰。国際的なテロ対策。 ②国連安保理決議に基づく多国籍軍の限定的攻撃。 ③アメリカの自衛権行使(及び他国の集団的安全保障)による報復攻撃(以下同じ)――アルカイダに的を絞った限定攻撃、特殊部隊による身柄拘束作戦。 ④アルカイダに限定した空爆と特殊部隊による作戦。 ⑤アルカイダのみならず、タリバーンにも及ぶ限定攻撃。空爆及び特殊部隊による作戦。北部同盟支援などによる政権転覆と、北部同盟や元国王を中心とする新政権樹立。 ⑥アルカイダ・タリバーン双方に対する地上軍投入。政権転覆と、北部同盟や元国王を中心とする新政権樹立。 ⑦アフガニスタンのみならず、イラクなど他の諸国やその地の過激派組織への攻撃。 ⑧イスラエルがパレスチナ過激派などを攻撃し、アメリカ軍事作戦とパレスチナ紛争とが連動する事。   勿論、①が最も望 ましく、②―④がそれに次ぐ。アメリカの態度からして、①・②の実現は到底不可能だと思われたが、③・④には一縷の望みを持っていた。論説第2部で、タリ バーン打倒を目的とする事を激しく批判したのは、このためである。空爆を行なった場合は、民間人の犠牲者が相当出る事は避けられないから、アルカイダに的 [...]

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