時評「核戦争の危機に面してーーイラク戦に対する反核平和」 小林正弥(千葉大学)
水曜日, 4月 3rd, 2002
1.核使用策定計画の衝撃ーー戦争で核兵器が行使される世界
2.反「テロ」世界戦争への拡大ーーイラク戦線開始
3.イラク攻撃の外交的準備ーー不名誉な日米枢軸
4.イラク攻撃のための停戦ーー便宜的なパレスチナ和平圧力
5.核行使の誘惑ーー不審なアナコンダ作戦の「教訓」
6.アメリカ帝国の夷狄討伐世界戦争ーー死線の完全突破
7.世界戦争への拡大と長期化ーー次期大統領選への戦争選挙戦術
8.イラク戦の最悪シナリオーー核戦争と中東戦争
9.被爆国家・日本の世界史的使命ーー絶対的反核の貫徹
10.戦後日本公共哲学の絶対的当為ーーー絶対的公共悪に対する和戦
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.続報(3月29日追加)
■1.核使用策定計画の衝撃ーー戦争で核兵器が行使される世界
既にご存じだと思いますが、9日付ロサンゼルス・タイムズは、アメリカが7カ国に対して非常時の核使用計画策定と、より小型の核兵器開発を指示していたこ とを報じ、さらに10日付ニューヨーク・タイムズは生物化学兵器貯施設を標的にした核攻撃シナリオの策定指示を報じました。核兵器使用の対象に挙げられて いるのは、ロシアをはじめ中国、北朝鮮、イラク、イラン、リビア、シリアで、「悪の枢軸」3国だけでなく、中国やロシアまでも対象に入っています。文書で は、核の使用が想定されるケースとして、(1)通常兵器では撃破できない敵(2)核や生物・化学兵器による攻撃への報復(3)予想を超える軍事上の展開、 の三種類が明記されていると報じられています。
日本の新聞が本格的に報じたのは10日で、私は会議のため山口でこの記事に接して、非常 に大きな衝撃を受けました。中国新聞では10日の一面トップで大きく扱っており、全国紙よりも本格的に報道していました(資料3)。おそらく、これは中国 新聞が広島県もカバーしているためだと思われ、参考資料に見ることができるように、中国新聞の報道はこの件に関しては全国紙よりも充実しています。
アメリカ当局者は核使用計画策定の方は政治的考慮から否定していますが、民間研究所グローバル・セキュリティーが核兵器開発指示の文書の抜粋をHPで公表 しましたし(資料13)、ラムズフェルド国防長官は情報漏洩を怒り(資料10)、ボルトン国務次官(安全保障担当)が事実上認める発言をしておりブッシュ 政権の核攻撃の可能性を認めている(資料11、18)ので、報道が真実であることは確実です。参考までに、資料14にそのHPに掲載されている機密文書 Nuclear Posture Review[Excerpts]を付します。
既に2月22日の段階でボルトン国務次官)が「核不拡散条約に加盟している非核保有国 には核攻撃をしない」というカーター政権以来の方針を変更する姿勢を見せていました(資料1)から、これが政権レベルで決定されたと見て良いでしょう。こ れは、核不拡散防止条約体制をますます揺るがせるものです。そして、大統領自身が、イラク・北朝鮮などに対して、大量破壊兵器開発に対して先制核攻撃も辞 さないという言明をしました(資料9)。また、前述の秘密文書では、
「一、米国が備えなければならない「直近」「潜在的」「予測不能事態」の三形態の対応計画を想定。核攻撃能力の設定に際しそれらに応じられる戦力を用意。
一、「直近の対応計画」は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による対韓国、イラクの対イスラエル攻撃や台湾をめぐる武力衝突など。
…
一、北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアは三形態のいずれかに属するが、北朝鮮とイラクは特に恒常的な軍事的懸念となっている。いずれもテロを支援、保護し大量破壊兵器とミサイル開発が活発。」(資料12)
とされており、特に北朝鮮の韓国攻撃、イラクのイスラエル攻撃、中国の台湾攻撃は、核使用を備えるべき「直近」の事例として具体的に挙げられています。
冷戦時代には、核兵器は抑止力とされており、万一使用されたら人類滅亡の危険を孕むものの、使用することのできない兵器と見做されていました。然るに、この核使用策定計画においては、むしろ具体的な危機において使用することが想定されています。
しかも、テロ支援や大量兵器開発が上記文書では挙げられていますから、政権は、現在の反「テロ」世界戦争において核兵器を使用する可能性を本気で考慮していると考えなければなりません。広島・長崎を始め、世界各地で批判が始まったのも当然です。
核の時計の針が動かされたのも当然です。広島・長崎以来の核兵器使用の危険が、高まっていると言わざるを得ません。これを知って、衝撃を受けないでいられ ましょうか? 核不拡散体制が危機に瀕するのみならず、アメリカは戦争で本当に核兵器が行使される世界へと舵を切ろうとしているのです。これは、黙示録的 世界に他ならないでしょう。
■2.反「テロ」世界戦争への拡大ーーイラク戦線開始
パキスタンでは、ウォール・ストリー ト・ジャーナルのダニエル・パール記者の誘拐・殺害事件(1月)に続き、昨日もイスラマバードのキリスト教会で手投げ弾テロがあり、アメリカ外交官家族を はじめ5人死亡、40人が負傷しました(17日)。今後も、様々なテロが続発することが懸念されます。
これに対して、アメリカは既に反 「テロ」世界戦争を、第2戦線以下へと展開させています。アフガニスタン戦争も継続していますが(アナコンダ作戦)、フィリピンを皮切りに、グルジア、イ エメンにも米軍が派遣されつつあり、さらにはコロンビアやスーダン・ソマリアなどへも派遣が検討されているようです。いよいよ戦線は世界中に広がり、ーー 世界大戦でこそないもののーー「世界戦争」の実質を備えてきたと言って良いでしょう(資料16)。
この焦点が対イラク戦争であること は、言う迄もありません。アメリカは、イラク攻撃には既に法的根拠がある(個別的・集団的自衛権を定めた国連憲章51条、停戦決議(安保理決議687)違 反)と主張しており(資料17)、フセイン政権打倒の意思を固めていることは確実です。
実は、同時多発テロとイラクの関係はさほど強く ないわけですが、アメリカ内部では、ーー同時多発テロとは別にーーフセイン政権が核武装する危険性が高いことを論拠として、それ以前に打倒すべきであると 論じられています。この点については、タカ派とハト派の間に大きな差はなく、その論争は主として時期(タカ派ー即刻、ハト派ー時期尚早)と方法に関しての ものとなっているようです(1)。前回述べたように、反「テロ」の論理から反「大量破壊兵器」の論理へと転換しているのは、主としてこのためでしょう。イ ラクの大量破壊兵器=核武装を阻止して、その前に攻撃するということに趣旨は尽きています。
現在は、具体策を練っている段階と思われ、アメリカでは
1.イラク反体制勢力を支援してフセイン大統領のクーデター・暗殺などを企てる。
2.アフガニスタンの場合のように、空爆を加え、イラク反体制勢力を支援する。
3.本格的地上軍投入。
というシナリオが公然と語られ、議論されています。
フォーラム75でお知らせしたように、1.や2.の段階は既に始まっており、CIA工作員は既にイラクに潜入しているようです。つまり、空爆などの本格的な戦争は勿論現在準備段階ですが、既にそのための第1段階は始まっているのです。即ち、
「【ワシントン28日共同】二十八日付の米USAトゥデー紙は、米中央情報局(CIA)がイラクのフセイン政権を打倒するため、内外の反体制組織を支援する秘密計画を進めていると報じた。米政府当局者や元CIA高官の話として伝えた。
同紙によると、CIAはイラク北部で活動する反体制クルド人組織や南部のシーア派イスラム組織の武装化や軍事訓練を計画。同時にイラク軍兵士の寝返り工作を進めるという。
ブッシュ大統領は三週間前にCIAのフセイン政権転覆計画を承認。最近、米外交官やCIA工作員がイラク北部に潜入した。
米政府はイラク内での工作と並行して、欧州で活動するイラクの反体制派組織イラク国民会議(INC)の元将校らを集めた会合を財政面で支援する。
ブッシュ大統領は大量破壊兵器を生産しているとしてイラクを「悪の枢軸」と位置付け、あらゆる手段でフセイン体制を打倒する意向を表明。軍事行動も辞さない構えで、国防総省は二十万人の米軍兵員を含む対イラク攻撃計画の検討を始めている。」(資料20)
この記事に続く情報として、ごく最近にも
「イラクの反政府勢力、イラク国民会議(INC)幹部は、米政府がフセイン政権打倒をめざす元イラク政府高官と数週間以内にワシントンで協議することで合意したと述べた」と報じられました(資料18)。
しかし、INCやクルド人勢力などのイラクの反体制派は、フセイン政権に比して弱小なので、アフガニスタンの場合のように北部同盟を空爆で支援するような 形では政権打倒に成功する可能性は必ずしも大きくないと考えられています。湾岸戦争の後でも、フセイン政権は北部クルド人武装勢力やイラク南部の反政府勢 力の蜂起を鎮圧したからです。
そこで、1や2の可能性を試みながらも、それで不十分な場合に、3の地上軍投入というシナリオが論じられています。この場合、一般的に25万人ぐらいの投入が必要とされています(2)。
これに即して、イギリスはその1割の2万5000人の出兵を検討しているようです。ブレア首相は支持を表明するに至り、来月5日からテキサス州の大統領別 荘でブッシュ大統領と会談してイラク攻撃への協力を表明する見通しです。さすがに、イギリス国内でも、閣議でクック院内総務を始め複数の閣僚が疑念を表明 して政権内部ですら異論が噴出し、60人を超す与党労働党議員らが「対米支援への懸念」を盛り込んだ動議案に署名しました(9日、朝日)。
■3.イラク攻撃の外交的準備ーー不名誉な日米枢軸
このために、アメリカは何とかイラク戦についての国際的支持を取り付けようとしています。その起点がブッシュ大統領の日本訪問(2月18-19日)でし た。後で親書が朝日新聞でリークされたように、実は日本経済を非常に懸念していたわけですが、表舞台では小泉首相を「偉大な改革者」として持ち上げて、イ ラク戦を念頭に反テロ戦争への支持を取り付けようとしたわけです。流鏑馬の鑑賞は、この訪日の意図を象徴的に表すものでした。馬上からブッシュ大統領が矢 を射る流鏑馬のイラストを送られて、「我々は悪と戦っている」と語った通りです。その矢で「テロリスト」を射ようというのでしょう!
ブッシュ大統領は、「日本は米国の最大の本物の友人の一人だ」とし、「アジア歴訪を日本から始めたことには重要な理由がある」として、日米同盟の意義を強 調しました。同時多発テロ事件以降「日米同盟の強さと、日本の地球規模の欠かせない役割」が示されたとして、対米支援に謝意を表明し、「自由は勝ち残る。 文明
とテロは共存できない。テロを破ることによって世界の平和を守る」と述べました。対イラク軍事行動についても、強い語調で「全ての選択肢はあ る。テーブルの上にそのまま載せておきたい。何一つ排除したくない」と述べて、イラク戦を考えていることを明確にしました。悲しいことに、日本の首相はそ れに応えて事実上の支持表明を行ってしまいました(以上、朝日18ー19日)。
日本との絆をことさらに謳ったのは、フランスやドイツ (フィッシャー外相)をはじめとするヨーロッパ諸国、さらにはイギリスですらイラク戦争には反対の気運が強いからです。特に、フランスはジョスパン首相・ ベドリヌ外相・リシャール国防相と一致して批判しており、アメリカを苛立たせています(資料22・23)。そこで、アメリカは最も従順な日本から最初に公 式な支持を取り付けることにしたものと思われます。
日本は、やはりアメリカの最も従順な随従国家であること、一の子分国家たることを表 してしましまいました。北朝鮮が「日米イスラエル」こそ「悪の枢軸」と批判しています(資料21)が、この時点では、実際に日米枢軸とでも呼べる状態だっ たのです! アフガニスタン戦争の時にも日本政府は最もアメリカに随従で最も早く軍隊派遣を決めたので、私は論説で「日英米枢軸」と批判的に揶揄しました が、今回はヨーロッパが明確に批判しているので、イラク戦への支持形成における日米枢軸が誰の目にも際だっています。
反「テロ」世界戦争のイラク戦線は、日米枢軸によって準備が開始されたことーーこれほど平和国家・日本にとって不名誉なことはないでしょう。
■4.イラク攻撃のための停戦ーー便宜的なパレスチナ和平圧力
現在は、チェイニー副大統領が10日から中東12カ国を歴訪中で、イラク攻撃への支持を取り付けようとしていますが、ヨルダン・エジプト・イエメン・オ マール・アラブ首長国連邦に続いてサウジアラビアすらもイラク攻撃に反対し、基地提供などの協力に難色を示しました(16日)。中東諸国からすれば、湾岸 戦争当時と違ってイラクの脅威は現在はさほどないのに対して、パレスチナ問題は深刻な情勢にあるからです。
そこで、アメリカは、中東諸国の支持を確保するために、パレスチナ国家に言及して「イスラエルとパレスチナの二つの国家」の平
和共存を求める国連安保理決議案を初めて提出しました(12日)。そして、サウジアラビアのアブドラ皇太子の中東和平構想にも関心を示し、これまでとは姿勢を変化させて、イスラエルの強硬策を批判して和平に応じるように圧力をかけ始めました。
イスラエルはますます凶暴になっており、ラマラ制圧というような最大規模の軍事作戦を行いましたが、ジニ米特使の仲介に当たって、アラファト議長の軟禁を 解除しました。さらに、アメリカの強い圧力を受けて当初の決定を変更し、ラマラなどから撤退して、停戦に応じて交渉の席に着く姿勢を見せています。16日 には、「シャロン首相が17日に三者会談を開催して停戦宣言をする」という声明を首相府が勇み足で発表し後撤回しましたが、18日には「自治区域からイス ラエルが撤退した後はパレスチナ政府が治安維持にあたる」という現場司令官の合意が成立して停戦宣言へと準備が進みつつあるようです(朝日、夕刊18 日)。
パレスチナ国家の承認は重要ですし、停戦自体は、勿論望ましいことです。しかし、この背景を考えると必ずしも素直に喜べません。 アメリカの和平圧力は、イラク攻撃のための便宜的なものに過ぎず、この停戦は、仮に成立したとしても、イラク攻撃の下準備に他ならないからです。それ故、 遅くともイラク攻撃が終わってしまえば、また元の状態に戻ってしまうことが危惧されます。あるいは、それまでも持たず、ジニ特使が帰ってしまえば崩壊する かもしれません。シャロン首相が本当に全占領地からの撤退をする気になるとは到底思えないからです。おそらく、単にアメリカの圧力を受けて一時的に譲歩す るに過ぎず、自爆テロなどをきっかけにしてーーあるいはパレスチナ側幹部暗殺などによってそのような事件を発生させーー再び強硬策に戻る機会を虎視眈々と 伺うことでしょう。
アフガニスタン戦争の段階でも、開戦以前にアメリカはイスラーム諸国の支持を得るために、パレスチナ国家構想に言及 [...]


